電撃ゲーム小説大賞

第10回 電撃ゲーム3大賞 入賞作品

大賞

「塩の街 wish on my precious」

作/有川浩 (兵庫県)

受賞作品

電撃文庫

「塩の街 wish on my precious」

もし明日世界が滅ぶとしたら、あなたはどうしますか……?

塩が世界を埋め尽くす塩害の時代。 塩は着々と街を飲み込み、社会を崩壊させようとしていた。 その崩壊寸前の東京で暮らす男と少女。男の名は秋庭、少女の名は真奈。
静かに暮らす二人の前を、さまざまな人々が行き過ぎる。あるときは穏やかに、あるときは烈しく、あるときは浅ましく。 それを見送りながら、二人の中で何かが変わり始めていた。
圧倒的な筆力で贈るSFラブ・ファンタジー!

作者作品一覧

プロフィール

1972年、梅雨生まれ。四国で育ち、進学時に関西へ。
現在、ちょっと(かなり)怠惰めの主婦として関西暮らし十有余年目。 お国訛りが未だに抜けず、怪しいニセモノの関西弁を操ります。郷里を語るとちょっぴり熱いプチナショナリスト(県粋主義者)。
性質:小心で人見知りな暴れん坊。 弱点:暑さと人混み(両方の条件がそろった環境に一時間ほど漬け込むとほどよく弱ります)。 嗜好:恋愛物と猫。

あらすじ

塩が世界を埋め尽くす塩害の時代。塩は着々と街を飲み込み、社会を崩壊させようとしていた。
その崩壊寸前の東京で暮らす男と少女。男の名は秋庭、少女の名は真奈。二人はある日、大きな荷物を背負った青年と出会う。彼は交通機能が失われた中、海を目指して歩いていた。その海を目指す異常な情熱に引き込まれ、二人は青年に付き合うことに。やがてたどり着いた海で、青年は荷物を開ける。中にはぎっしりと詰め込まれた塩。それは塩害で塩と化した恋人の亡骸だった。亡骸を風化させ、街に吹き散らされる塩の一部にするのが忍びなく、彼は恋人を母なる海へ溶かしに来たのだった。
青年と別れた後、秋庭と真奈は別の男と出会う。脱獄囚であるその男は、塩害で物資が欠乏する折り、口減らしで殺されることになったのだという。逆らって逃亡したものの、男は既に塩害に侵されており、二人に最期を看取られる。その塩化した遺体は、男の捜索に当たっていた自衛隊が回収して去った。
その後二人の住む部屋へ、秋庭の旧友であり、自衛隊の駐屯地指令でもある入江という男が訪れる。彼は元航空自衛官である秋庭に、塩害を解決するための協力を要請しに来たのだった。塩害の原因と解決方法を知っているという入江に招かれ、秋庭と真奈は駐屯地に移り住む。
塩害阻止作戦に参加する秋庭と、秋庭の被保護者である真奈は、すれ違いの生活を送り始めた。その別々に過ごす時間が、真奈に秋庭への思いを自覚させる。秋庭が危険な作戦に参加することを知った真奈は、秋庭に自分の気持ちを伝え、引き止める。しかし秋庭は、それを振り切って作戦に参加した。――真奈を塩害から守るために。
残されて秋庭の帰還を待つ真奈。
やがて、塩害以降聞くことのなかった飛行機のジェット音が聞こえてきた。それは秋庭が乗っているはずの戦闘機の音だった。――真奈は表に駆け出した。
「お帰りなさい」とその一言を伝えるために。

選考委員選評

安田均

塩化という災害を大規模に描いて、一気に読み切らせる力量を持っているのはすばらしい。特に、巻頭のエピソードがせつなく描かれていて、そのイメージといい、キャラクターといい、これはとわくわく感が大きかった。疑問点は、そうした前半のエピソード風の展開とメインストーリーの接合に、ややバランスを欠いている点。もっとも、それは読み手があれもこれもと期待してしまうからだろう。力作。

深沢美潮

最初のエピソードからいきなり惹きつけられました。圧巻!!ともかく筆力が群を抜いています。ただし、エンディングに向け、内容的に書ききれなかった部分があって。それがとっても残念。ともかくジャンルの枠を超え、大きく飛躍するであろう大器の予感があります。高畑さんとふたりで大推薦した作品。期待してます。

高畑京一郎

構成、アイデア、エピソード及び登場人物の練り込み。 どれを取っても別格という印象でした。一巻ものとして物語を完結させているところも好印象。けれど、前半部に比べ、後半部の密度が薄く感じられる。特に米軍基地襲撃は秋庭の最大の見せ場となるべきで、ここを省略するのは勿体なさすぎる。このお話の主軸は恋愛物語であってアクション要素は付随的なものなのだろうとは思うが、読者の立場からすると秋庭の活躍も見たいのです。

佐藤辰男(メディアワークス社長)

東京の人口が1/3に減った崩壊した世界で、一人の少女が、幾度もくずおれそうになりながら愛を獲得していくまでを描いている。その様が男の恣意的な視点ではなく、女性の感受性や生理を通して誠実に描かれているところに、この小説のみずみずしさがある。絡んでくる男たちも凛々しくてよい。

鈴木一智(電撃文庫編集長)

人が塩と化してしまう“塩害”に侵された世界で繰り広げられる人間模様。前半のSF的な展開を後半で少女の恋物語に転化するという構成で独特の世界観を作り上げています。昨年<大賞>を受賞した『キーリ』同様、女性を含め幅広い読者にアピール出来る魅力を持った作品だと思います。