電撃小説大賞

第15回 電撃大賞 入賞作品

電撃文庫MAGAZINE賞

「眼球奇譚」

作/鷹羽知 (愛知県)

受賞後作品

電撃文庫

紅はくれなゐ

遊郭を舞台に描かれる、鮮烈な花魁模様。

著者  : 鷹羽知
イラスト: 玉置勉強
定価  : 620円(税込)
発売日 : 2009年6月10日
備考  : A6判/328ページ
ISBN: 978-4-04-867854-4

作者作品一覧

プロフィール

1991年生まれ。愛知県、女だらけの園に在学中。割と男前な女の子たちに囲まれながらソロソロと生きてます。眼球とか球体関節人形とか紫がかった色々、そういう美しいものを、好きだ好きだと叫びつつ愛しいライトノベルと和えていたら、気づいたときにはこのような場所でぽつねんとしていました。物凄い勢いで迫り来る “夢見た瞬間” の迫力に、バック走で逃げだしたくなる衝動を必死に堪えながら、やっぱりソロソロと生きてます。

あらすじ

十九世紀末のロンドン。人間の眼球を集め、鑑賞することを至上とする “好事家” と呼ばれる人間たちがいた。彼らは金にあかせて、あらゆる人種の美しき眼球を、生きている人間から奪い取っていく。しかし、そんな好事家たちを怯えさせる事件が発生する。それこそ、ロンドン中を震撼させた “切り裂きジャック”。この残忍な殺人鬼は、次から次へと好事家たちを狙い、その眼球を抉りとっていったのだ。

物語は、その殺人鬼を恐れて街の人間がうかうかと出歩けない静かな夜から始まる。街灯の明かりがぼんやりと浮かぶ街中を、ガタガタと音をたてて走る馬車。中で優雅に揺られているのは、高級な衣服に包まれた美しい少女だ。気だるそうに窓の外を眺める彼女の手には、ひときわ美しい眼球が置かれていた。ひんやりと冷たい眼球を撫でる少女が目を前へ向けると、安っぽい黒コートを着込んだ娼婦らしき女性が歩いているのを見つける。興味をもった少女は、その娼婦を馬車に招き入れる。

「どこへ行こうとしてるの?」 「ホワイトチャペル地区へ」 「偶然ね。わたしも同じよ」。ホワイトチャペル地区とは、切り裂きジャックが頻繁に出没しているエリアだ。少女の手元にある眼球を見やり 「お嬢さんは好事家なんでしょう。危ないじゃないですか」 と問う娼婦に、少女は 「切り裂きジャックなんて恐くはないわ。それよりも好事家の集いのほうが大事よ」 と答える。好事家の集い。それは、貧しさゆえに眼球を売る貧民窟の住人たちを競り落とす、闇のオークション。好事家が好事家であるために欠かせないことだという。

一方、ホワイトチャペル地区へ向かう理由を明かさない娼婦は、切り裂きジャックについて妙に詳しい情報を披露する。不思議に思う少女が 「なぜ?」 と訊ねると、毒々しい血色の唇を歪め 「さぁ、どうしてでございましょうね」 と目細め、笑うのだった――。

少女と娼婦。内に狂気を秘めた2人の運命は、やがて、切り裂きジャックを巡って交錯する。眼球に魅入られた者たちが辿る道は、どこへ通じているのか? そして、切り裂きジャックの正体は……?

選考委員選評

高畑京一郎

癖があり読みやすいとは言えない文体だが、不思議な魅力がある。なによりも、ストーリーとイマジネーションの密度が圧倒的。この短い分量の中でよくぞここまでと驚かされた。頭で考えて書ける作品ではないので、感性の作家だと思う。この作者が今後どういうものを書いていくのか、非常に気になる。

時雨沢恵一

怖い話が苦手な私は、びくびくしながら読みました。今回最も強烈な印象を残した作品だったのは間違いありません。後に作者の年齢を聞いて再度驚きました。おめでとうございます。

佐藤竜雄

世界観にそぐわない表現が時折見られるものの、非常に綺麗にまとまった短編。狂気の描写も抑制が見られて逆に怖さを感じる。かと言って恐怖ものではない独特の雰囲気に惹かれた。作者はこの後何処へ行くのか、何を書くのかが興味のあるところ。

豊島雅郎

「十九世紀末ロンドン。人間の眼球集めを至上とする好事家の少女……」、個人的には、今回の審査作品の中で一番心を揺さぶられた。文体にも初々しいノワール感が漂い、BLモノさながらのストーリーとも相まって、今の時代ならではの売れる要素が沢山詰まった秀逸な短編作品だと思いました。エンターテイメントをもっともっと追究して欲しい、将来が楽しみな逸材だと思います。

鈴木一智(第2編集部 部長・統括編集長)

電撃小説大賞の最年少受賞記録を更新した作品。16才という年齢を考えると恐るべき筆力で、幻想的かつ猟奇的な世界観は既に強烈な個性をも醸し出しています。まだ若い方ですので将来を作家に限定してしまうのは時期尚早ですが、この才能は見守っていきたいと考えています。