電撃小説大賞

第19回 電撃大賞 入選作品

メディアワークス文庫

「路地裏のあやかしたち 綾櫛横丁加納表具店」

作/行田尚希(栃木県)

受賞作品

メディアワークス文庫

路地裏のあやかしたち 綾櫛横丁加納表具店

不思議な力をもつ、若く美しい表具師。彼女の正体はーー

著者  : 行田尚希
定価  : 620円(税込)
発売日 : 2013年2月23日
備考  : A6判/354ページ
ISBN: 978-4-04-891377-5

プロフィール

栃木県出身在住。体育会系理系家庭に生まれた突然変異の文系人間。学生時代は日本近世史専攻。カタカナよりも漢字が落ち着く。最寄駅がぜんぜん最寄じゃない田んぼばかりの田舎でのんびり育つ。そのせいか何をするにも人より一歩遅い。若干放浪癖が有り、小心者のくせに一人でふらふらするのが好き。

受賞者コメント

このたびは栄誉ある賞を頂き、本当にありがとうございました。選考委員の先生方、編集部の皆様、関係者の皆様に心よりお礼申し上げます。未だに信じられない、というのが正直な気持ちです。完全に選評シート目当てだったので……人生いつ何があるか分かりません。これからも「読んでくれる人に面白いと思ってもらえる物語を書く」という初心を忘れず、精進していきたいと思います。

あらすじ

高校生の小幡洸之介は、画家である父の作品が夜になると動き出すという怪奇現象に日々悩まされていた。そんなとき、クラスメイトから「玉響通り綾櫛横丁にいる大妖怪が、そうした事件を解決してくれる」という噂を聞き、半信半疑で訪ねることにする。丑三つ時を狙って綾櫛横丁の奥へと足を進めると、たしかに怪しげな日本家屋が建っていた。意を決して中へと入った洸之介が出会ったのは、加納環と名乗る、若く美しい女性表具師だった。
掛け軸を仕立てる表具師としての仕事の他に、彼女は、絵画に染みついた人間の思念を封じ込めるという、裏の仕事も手がけていた。洸之介は、亡き父の思念が染みついた絵を、環に表装してもらおうと考える。やがて父の思念の正体を知り、それを受け止めた洸之介は、父の遺作を自分の手で表装したいと思い、環への弟子入りを志願する。だが、環に関する重大な事実を知り、彼は驚愕するのだった……。

選考委員選評

高畑京一郎(作家)

世界設定、キャラクター、大道具小道具に至るまで、非常に作り込みが丁寧な作品。特に、表具に関する描写が秀逸。それぞれのエピソードおよび全体の流れも、よく練られている。最後の締め方に、やや取って付けた感があるのは残念。質の高い作品だが、日本の妖怪たちが活躍する物語というのは常に一定数あるので、差別化を計る必要があるかもしれない。

時雨沢恵一(作家)

表具という、馴染み無いテーマを分かりやすく教えてくれる作品。まったく知らなかったので、興味深く読めました。それぞれのキャラクターをメインに据えた短編連作なのですが、バリエーションに富みつつ、心温まる話が多いです。このパターンは、アイデアを思いつくのが大変になってきますが、是非とも頑張って続けてもらいたいです。

佐藤竜雄(アニメーション演出家)

表具のうんちくが面白い。主人公の技術の習得と人間的な成長がダブっているのはわかりやすい。彼には事件を解決する能力はないけれど、その分、師匠のキャラが魅力的だからいいのか。一つ一つのエピソードが淡々としているが、ゲストキャラの立て方がしっかりしているため薄さを感じない。とはいえ、ラストの主人公の喪失感は唐突で興ざめ。

鈴木一智(株式会社アスキー・メディアワークス取締役・第2編集部統括編集長)

タイトルや連作短編形式など『ビブリア古書堂〜』を意識したような作り。ノスタルジックな世界観や魅力溢れるサブキャラの布陣、そして飾り気のない語り口がハートウォーミングなテイストを醸し出しています。事件簿としての色合いはさほど濃くはありませんが、読後の癒しが心地よい良作。ラストエピソードが少し物足りないのですが、これは改稿で充分対応できるでしょう。

徳田直巳(電撃文庫編集長・電撃文庫MAGAZINE編集長)

表具師というアイデアは秀逸。物語のそこかしこに昭和のノスタルジックな匂いが漂っていて、好感が持てる作品でした。しかし、いささか展開がワンパターンかも。掛け軸に思念を封じ込める方法にもう少しバリエーションを出せたら、物語の幅が広がって良かったのではと思います。

佐藤達郎(メディアワークス文庫編集長)

馴染みの薄い「表具」を中核に据え、表具の知識をさりげなく散りばめながらエピソードを展開していく構成が良かったです。それぞれ話にバリエーションがあり丁寧に描かれていて、店主の過去が語られるエピソードも良い雰囲気でした。店主の環を始めとしたどこか憎めない妖怪のキャラたちが楽しく、誤解していた父の遺作のために主人公がどのような表具を作っていくのか今後が楽しみです。