電撃小説大賞

第22回 電撃大賞 入選作品

大賞

「ただ、それだけでよかったんです」

著/松村涼哉(愛知県)

受賞作品

電撃文庫

ただ、それだけでよかったんです

どうか嘲笑しながら見てほしい。情けなくてみっともない僕の物語を。

著者  : 松村涼哉
イラスト: 竹岡美穂
定価  : 本体550円+税
発売日 : 2016年2月10日

プロフィール

名古屋市在住の21歳。自己紹介と自分語りが苦手。Twitterが恐い。それでもプロフィール欄を書かねばならぬ立場になったことに本気で困惑中。あとがきも多分、書けない。自分には、小説の中身で勝負するしか最初から選択肢がないので、今後も精進する所存です。

受賞者コメント

受賞の報告を受けた時の感想を正直に言うならば「いいのだろうか?」という驚きです。この受賞作はライトノベルの流行や王道を考えずに、自分の書きたい物語を突き詰めた私欲まみれの作品だったためです。ですが、その分、認められた喜びは格別でした。今では、名誉ある賞を与えて下さった選考の先生方の期待に恥じないよう、堂々と! 受賞作とその主人公を愛して、皆様にお届けできればと思っております。

あらすじ

ある中学校で、一人の男子生徒Kが自殺した。『菅原拓は悪魔だ』という遺書を残して――。自殺の背景には、「悪魔のような中学生」菅原拓による、Kを含めた4人の生徒へのイジメがあったという。だが、菅原拓はスクールカースト最下位の地味な生徒で、Kは人気者の天才少年。イジメの目撃者が誰一人もいないこと、彼らの接触の証拠も一切なかったことなど、多くの謎が残された。なぜKは自殺するまで追い詰められたのか。そこには驚愕の真実が隠されていた。

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

高畑京一郎 (作家)

こうだと思い込んでいた図柄が、角度を変えると全く違って見えてくる。そういうスタイルの作品。視点の持ち主も変わるし、時間軸も入り組んでいるが、その割にはするすると読める。真実はどうだったんだという興味が読ませる力になっているのだろう。川本校長の一連の行動は教育者としても大人としても無責任極まりないので、彼を『大人の論理』の代表みたいに扱われると、ちょっと異論を唱えたくなる。

時雨沢恵一 (作家)

謎が謎を呼ぶ、ぐいぐいと続きを読ませる構成と、全体に漂い続けるダークさが素晴らしく、読む手が止まりませんでした。最初はメディアワークス文庫向けかと思いましたが、これは電撃文庫で出すと聞き、なるほどと考え直しました。発売後の読者の評価がとても気になります。作者の年齢は選考会の終盤で知りましたが、予想より若くて驚きました。

佐藤竜雄 (アニメーション演出家)

人の心を折るということをここまで誠実に描いた作品はなかなか無い。人の欺瞞を一番理解していたのがいじめの当事者二人だったという皮肉が良い。それだけに周囲の人物像がぼやけ気味だったのが惜しまれる。とりわけ試験の張本人たる校長と主人公の前に登場する年上の少女が物語に動かされているように見えたのは勿体無かった。

荒木美也子
(アスミック・エース株式会社 映画プロデューサー)

話は面白いし、テーマも現代的でGOOD。構成もとても良く出来ている。ラストの感慨もとても良い。3拍子揃った、大賞にふさわしい作品です。唯一、岸川香苗と、親友である紗世の関係について、読者に対する種明かしは良く出来ているが、一歩引いて考えると、その設定であったら、今、物語で描かれているような香苗と紗世の関係は成立しないのではないか、そこだけは疑問が残りました。

佐藤辰男
(カドカワ株式会社 代表取締役会長)

緻密で繊細な作品。簡単には真実にたどり着かないサスペンスもたっぷり。いじめに自殺という陰惨なテーマを扱っていながら、(また実際の終わり方としてもハッピーエンドとは言えないが、)最後にジワリとくるカタルシスは用意されていて、主人公の明日を信じさせる。今の時代を写し取った大賞に値する作品だと思う。

鈴木一智 (アスキー・メディアワークス事業局 統括部長)

独特な語り口と徹頭徹尾重い展開、最初は取っつき難いのですが読み進める内に特異な世界観が浮かび上がり、見事に構成されたストーリーラインが読み手を作品世界に引き込みます。好みが分かれそうな作風ながら、メインキャラである菅原の思想や感情がない交ぜになった革命衝動や最後に救いを残したエンディングなど個人的に強烈な印象が残った作品でした。まだ若い方ですのでこれからの成長も楽しみです。

三木一馬 (電撃文庫編集長、電撃文庫MAGAZINE編集長)

『人間テスト』によって変わってしまった教室を『革命』によって変えようとする少年の話。『革命』の中身が壮絶で、ストーリーが進むにつれ、どんどん引き込まれていきました。内容としては些細な欠点がいくつかあったのですが、それを上回る個性とパワーをもってして、大賞を射止めました。人によって評価が大きく分かれる、非常に野心的な作品です。そういった内容の作品が、電撃小説大賞からデビューすることをとても嬉しく思います。

佐藤達郎 (メディアワークス文庫編集長)

自殺した昌也の姉が事件の真相を探っていく視点と、悪魔と呼ばれマスコミに叩かれる拓という少年視点が交互に展開する、構成と演出が巧みな作品でした。人間テストという発想も秀逸です。真実が明らかになっていくにつれて認識が逆転していく過程がスリリングで面白く、こういったテイストの小説としては近年の応募作の中で突出したクオリティをもった作品でした。