電撃小説大賞

第23回 電撃大賞 入選作品

金賞

「賭博師は祈らない」

著/周藤 蓮(東京都)

受賞作品

電撃文庫

賭博師は祈らない

孤独で無気力な賭博師が手に入れたもの
それは奴隷少女に絆される、新しい生活。

著者   : 周藤 蓮
イラスト : ニリツ
定価   : 本体630円+税
発売日  : 2017年3月10日

プロフィール

プロフィールを書くにあたって自分の筆名を確認したところ、何でこんな名前にしたのか思い出せず困りました。よくよく考えたら電撃大賞の応募フォームを埋める時にシュトーレンを齧っていたからだと思い出しました。クリスマスシーズンでもない時期にシュトーレンを食べていた理由は自分でも分かりません。そういう感じの人です。

受賞者コメント

小説と呼べるようなものを初めて書いたのは小学校三年生の時で、それを読んでくれたのは友人二人だけでした。その頃に比べて、気付いたら随分遠くへ来たという思いばかりがあります。過分な賞を賜り身の引き締まるような心地です。より一層の精進をもって応えさせて頂きます。

あらすじ

十八世紀末、ロンドン。とある勝負で手に余る大金を手にしてしまった若き賭博師ラザルスが、賭場から仕方なく購入させられた商品――それは一人の奴隷だった。薬で喉を焼かれ声を失い、どんな扱いを受けようが決して逆らわないよう躾けられた少女リーラ。身寄りのないリーラを放り出すわけにもいかず、ラザルスは彼女をメイドとして雇うことに。慣れない触れ合いに戸惑いながらも、二人は次第に想いを通わせていくが……。

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

高畑京一郎(作家)

物語的には異世界設定でもよかった筈なのに、そこをあえて18世紀のイギリスという時代考証が必要な舞台設定にしたところに、作者のこだわりを感じる。主人公の賭博師としての才能・技能は様々な状況で活用できる筈なので、そういう「日常のちょっとしたエピソードの中で窺える賭博師としての凄み」のようなものが、もう少し欲しかったかなと感じた。

時雨沢恵一(作家)

主人公の賭博師と、奴隷の喋れない少女という組み合わせは、18世紀のロンドンという舞台ならではの設定の勝利だと思います。ギャンブル描写は分かりやすく、ブラックジャックを知らなくても楽しめるのも高評価でした。最後のカード勝負の“結果”もお見事です。

佐藤竜雄(アニメーション演出家)

18世紀のイギリス帝都という舞台を背景としてでは無く、コーヒーハウスやボクシングの黎明期の試合など、興味深い風物を描くことで人が生きている「街」にしている。ギャンブル描写は的確。主人公達の駆け引きが明瞭で、緊迫感を維持して勝負が進む。しかし主人公が自身の信条をかなぐり捨てる動機が弱い。少女とのふれ合いをもう少し印象的に描くとタイトルのハードボイルドさは読後更に強まるかと。

神 康幸(映像プロデューサー/株式会社オフィスクレッシェンド 取締役副社長)

著者の知識と想像力に感服。まさか、18世紀ロンドンの喧噪が活写された作品と出逢えるとは! とにもかくにも主人公がカッコイイ。スタイリッシュでニヒルで。僕たちの会社では無理なので、ガイ・リッチーさんによる実写化希望(笑)! セリフで言うべきところと、言えない思いを地の文章で書き分ける……そのバランスは天性のもの。作家としての突き抜けた力量を感じた。改良点は少しあるが、それは、こっそりとご本人にお伝えしたい……。

佐藤辰男(カドカワ株式会社 代表取締役会長)

私の一押し。賭博小説としても一級品。18世紀のロンドンが舞台。清教徒革命の時代だった前世紀から一転して博打と麻薬の時代になったという時代の空気がうまく描かれている。奴隷や拳闘、カフェなどの知見が楽しい。が、「麻雀放浪記」のファンからすれば、余計な描写はそぎ落として、全編博打シーンでつなげてほしかった。

鈴木一智(株式会社KADOKAWA アスキー・メディアワークス事業局 統括部長)

何事も「どうでもいい」賭博師の青年と喉を焼かれて声を失った奴隷少女──普通なら殺伐とした話になりそうな設定ながら、ハートウォーミングな人間ドラマに仕上げている手腕に(そして必要以上に情緒的にしない匙加減に)、この作者のストーリーテラーとしての資質を感じます。賭博モノとしても勿論秀逸なのですが、個人的にはラザルスとリーラが心を通わせてく過程がこの物語の大きな魅力なのではないかと思います。18世紀末のロンドンという舞台設定も効いていて、読了後に良い映画を1本観たような気分になれる秀作です。

和田 敦(電撃文庫編集長、文庫プロデュース課編集長)

徐々にヒロインの少女が感情を持っていく流れは、王道にしてカタルシスがあるストーリーだと思います。またコインの仕掛けも最初から読み手はわかるかと思うのですが、それに気付く少女の反応を見たいという期待度も上がるように、しっかり演出できていました。著者が表現したい世界観や雰囲気もしっかり出せていたと思いますが、作品の売りをどこに重きを置くかという面で、少し物足りなさもありました。

佐藤達郎(メディアワークス文庫編集長)

声を出すことができないという制約の中で、奴隷の少女リーラが次第に感情を取り戻していく姿を鮮やかに描き出す筆力がすごいと思いました。そんな彼女と暮らすうちに、刹那的に生きてきた賭博師のラザルスが生まれ変わっていく物語でもあり、互いに影響を与え合い変わっていく様子に作品の温かさを感じます。再び絶望の底に落とされたリーラが、救いに来てくれたラザルスを見て、声を上げて泣きしがみつくシーンは特に感動的でした。