電撃小説大賞

第23回 電撃大賞 入選作品

銀賞

「明治怪異新聞」

著/さとみ桜(岐阜県)

受賞作品

メディアワークス文庫

明治怪異新聞

世間を賑わす新聞記事には秘密がある――!?
ぞわっとして、ほろりとする明治人情物語。

著者   : さとみ桜
イラスト : 銀行
定価   : 本体630円+税
発売日  : 2017年3月25日

プロフィール

生まれも育ちも学校も勤め先も岐阜県某市の引きこもり系。ヒゲ、筋肉、オッサンが好き。しかしながら理解者は少なく、寂しい人生を送っている。趣味は睡眠。特技は迷子。最近は人生にも迷っているらしい。

受賞者コメント

「電撃大賞? あそこ応募総数何千作とかでしょ? 無理無理。1次通過も無理なんじゃない?」と言っていたのですが、「でもメディアワークス文庫好きだから、送ってみるか! 送るだけならタダだし!」と投稿したところ、思いがけず銀賞を頂きました。何事も一度は試してみるものです。まずは選考に関わったすべての方々に厚くお礼申し上げます。

あらすじ

友達思いの16歳の少女香澄は、怪異をネタにした新聞記事によって幼馴染が奉公先を追い出された事を知り、単身新聞社に乗り込む。しかしそこに居た、顔立ちだけは端正な記者久馬に軽くあしらわれてしまう。憤慨する香澄だが、久馬の友人であり、妙な妖しさを持つ役者、艶煙に連れられ行動をする内に、記事の“本当の意味”に気付き――。ぞわっ、ほろり、スカッ。人々がまだ“怪異”を信じていた古き良き時代を舞台に繰り広げられる、不思議で温かな人情物語。

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

高畑京一郎(作家)

文明開化が始まってはいるが、侍のいた時代も遠くはない。そんな明治9年という時代を、自然かつ自在に描いている。連作短編としての構成も、押さえるべきところを押さえており、非常に完成度が高い。ただ、時代設定と『怪異』というテーマを考えると、情念や妄執といった人間の暗部を、もう少し前面に押し出しても良かったのではないだろうか。

時雨沢恵一(作家)

明治初期が舞台の作品で、私はそれほど詳しいわけではないですが、その時代の雰囲気はとてもよく感じました。これは若干ネタバレになってしまうのですが――、怪異とタイトルにありますが、実際には怪異現象は起きず、全て生きている人間のトリックで問題が解決されていくところが気に入りました。

佐藤竜雄(アニメーション演出家)

江戸の名残ある明治の初頭の雰囲気が良い。それだけにルビの使い方や地理的情報の盛り込みにもう少し気を遣うと更に明治感が出るかと。半七捕物帳のような推理ものを経て人情ものに行き着く、この流れは良いのだがタイトルでホラーやミステリーを期待した人は面食らうかも。あと、メインの三人、取りわけ男性二人の名前の読みを最後まで触れずにいたのには意味が無かったのでいささか拍子抜け。

神 康幸(映像プロデューサー/株式会社オフィスクレッシェンド 取締役副社長)

怒濤のように西洋文明が押し寄せる明治初期という舞台設定。激動の時代ならではのエピソードは魅力的で、怪異現象を追いかける主人公たちの物語は、僕たちの会社がドラマや映画でシリーズ化した「トリック」の明治版とも呼べるポテンシャルがある。惜しいのは、主人公たちに「特技」や「専門知識」がないこと。だからミステリー押しにせず、人情ものとして訴えかけるタイトルに変更されてはいかがかと感じた。

佐藤辰男(カドカワ株式会社 代表取締役会長)

明治9年の東京を舞台に、新聞記者、戯作者、少女(いつのまにか巻き込まれた)の3人が、怪異をでっち上げて事件を解決していくという短編連作。筆致が安定していて読ませる。“件(くだん)”や動く掛け軸など小道具もいかにも明治らしい。戯作者が得体が知れないところをもっと生かせると面白くなる。

鈴木一智(株式会社KADOKAWA アスキー・メディアワークス事業局 統括部長)

ライトミステリテイスト、ハートウォーミングストーリー、連作長編形式、少女コミック的なキャラメイク、そして明治9年の東京という雰囲気のある舞台設定など、近年の売れ筋をキッチリ押さえた作り。狙いが明確過ぎて破天荒なインパクトに欠ける印象もありますが、そんな指摘など凌駕する完成度が本作を銀賞に導きました。電撃文庫とメディアワークス文庫のどちらでも執筆できそうなプロスキルもこの方の強みでしょう。シリーズ第一巻的な作りなので続編の展開も期待できます。

和田 敦(電撃文庫編集長、文庫プロデュース課編集長)

市井の人々のトラブルを怪異の仕業として新聞に掲載するという設定は、どこか優しさを感じさせて良いアイデアだと思いました。なのでミステリーを期待して読むと、オチは読めやすいので少しがっかりさせられるかもしれません。とはいえ、全体に優しい雰囲気は感じさせるので、そこは著者の武器として今後にも活かせると良いかと思います。キャラクターの関係性も期待感をあおられました。

佐藤達郎(メディアワークス文庫編集長)

江戸から東京へ。人々の価値観や生活が大きく変化していく時代。それでもまだ妖しが現実の中に息づいていた時代。そんな時代の空気感が心地よく、物語の中にすっと入っていける作品でした。何だかんだ言いながら主人公の香澄を大切に思う久馬と艶煙のキャラも頼もしく魅力的で、怪異のせいにしてでっち上げた記事で人助けをする発想も面白かったです。欲を言えば、タイトルにある「怪異」の味付けを少し濃くしても良かったかも。