電撃小説大賞

第23回 電撃大賞 入選作品

選考委員奨励賞

「ひきこもりの弟だった」

著/葦舟ナツ(栃木県)

受賞作品

電撃文庫

ひきこもりの弟だった

ラスト、読む人に【幸せとは何か】を問いかける。
圧倒的な衝撃で選考会に波紋を広げた、異色作!

著者   : 葦舟ナツ
イラスト : げみ
定価   : 本体650円+税
発売日  : 2017年3月25日

プロフィール

かなりの小心者です。最終選考に残ったという連絡をいただいた後、緊張して食欲を喪失。友人に喜びの報告をしたのですが、その際、友人は私の衰弱した様子を見て「誰か死んだのでは」と思ったそうです。因みにペンネームはこの友人につけてもらいました。コーヒーが好きで、毎朝6時にゴリゴリと豆を挽いています。コーヒーを飲みながら小説を書いています。

受賞者コメント

選考に関わってくださった全ての方に感謝申し上げます。電撃大賞への応募は今回で3回目で、過去2回、2次で落選しています。その時にいただいた選評が作品を書く上でとても励みになりました。重ねてお礼申し上げます。また、今回奨励賞をいただき大変嬉しく思っております。このような形で背中を押していただきましたこと、しっかりと受け止めて、全力で突っ走っていこうと思います。

あらすじ

『質問が3つあります。彼女はいますか? 煙草は吸いますか? 最後に、あなたは――』 突然、見知らぬ女にそう問いかけられた雪の日。僕はその女――大野千草と“夫婦”になった。互いを何も知らない僕らを結ぶのは【3つ目の質問】だけ。まるで白昼夢のような千草との生活は、僕に過ぎ去った日々を追憶させていく――大嫌いな母、唯一心を許せた親友、そして僕の人生を壊した “ひきこもり”の兄と過ごした日々を。これは誰も愛せなくなった僕が、君と出会って愛を知る物語だ。

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

高畑京一郎(作家)

すっきりもしないし爽やかでもないが、重みのある作品。傷の舐め合いのような結婚生活は、結局彼にとってプラスだったのかマイナスだったのか。そこも含めていろいろ考えさせる。主人公の鬱屈はよく分かるが、奥さんのそれはあまりピンと来ないので、奥さん側の描写にもう少し枚数を割いても良かったかもしれない。

時雨沢恵一(作家)

重く苦しく苦い話で、私としては今回読むのに一番時間がかかった作品でした。選考委員の中でも票が割れて奨励賞となりましたが、私は最初はもっと上の賞に推していました。描写力の高さには感服しました(特に現在のシーン)。とても衝撃的なラストも、高評価の一因でした。ここだけは、本になっても直さないでください。

佐藤竜雄(アニメーション演出家)

生活描写の語り口がうまいので二人の結婚生活が頭に浮かぶ。その分、現在と過去を交互に描く構成の座りが悪く、最終的に交錯する筈だった弟としての今と夫婦生活の終わりが横並び気味になってしまったのが惜しい。もう少し現在の生活寄りにして主人公や妻がどんな人間なのかを突っ込んで描いた方がダブルミーニングなタイトルも効いてくるかと。

神 康幸(映像プロデューサー/株式会社オフィスクレッシェンド 取締役副社長)

格別に冒頭のシーンが素晴らしい。雪の舞い散る宇都宮駅のホーム。主人公は、偶然出会った女性から結婚を申し込まれる。どう展開するのかとドキドキしながら読み進めていったが、「この女性は誰なのか」という展開よりも、主人公の「回想」に随分とボリュームが割かれ、期待感を削がれた。とは言え、繰り返し登場する「朝食」のシーンは絶品。タイトルは、審査員のほとんどが逆の意味だと感じられたようなので、変更された方が……。

佐藤辰男(カドカワ株式会社 代表取締役会長)

選評会で評価が分かれた作品だが、私は好きだ。導入の雪のシーンがとても幻想的。この時主人公はどんな格好をしていたか、あとで分かるところも印象的。この主人公は愛と嫌悪のあいだに引き裂かれている。結末が嫌だという人がいたが、私はこの結末がいいと思う。世界とどう折り合いをつけたらいいのか、きっとまだ答えがないのだ。

鈴木一智(株式会社KADOKAWA アスキー・メディアワークス事業局 統括部長)

何一つ超常的な事は起こっていないにも関わらず、私小説風の緻密な心理描写が謎めいた雰囲気と妙な緊迫感を醸し出し、不可思議な人間の性を浮き彫りにしていく物語。現在と回想が入れ子になった構造や読んだ後に本意が分かるタイトルにもこの方の作風が現れているように思います。過去の束縛から解放されようとする主人公たちが目指す方向に若干相容れないものを感じたのですが、これは私がいい加減な人間だからでしょう(苦笑)。ともあれ全体として強い印象が残った作品でした。

和田 敦(電撃文庫編集長、文庫プロデュース課編集長)

感情の流れの部分は、わかるようでなかなか共感を得られない面もあるかと思います。そこは著者のセンスだとは思うのですが、実際に選考会でも話題にはなりました。個人的には主人公の心情の変化やラストにカタルシスを得られなかったのですが、見方を変えることで納得のできる部分もあり、後から「なるほど」と考えさせられました。癖は強かったのですが、それだけインパクトも強かった作品なんだと思います。

佐藤達郎(メディアワークス文庫編集長)

冒頭の掴みがうまく、思わず引き込まれる作品でした。千草との結婚で初めて味わった、ふわりとした夢のような平穏な生活。それを兄と母の間で苦しみ続けた過去と交互に見せることにより、主人公の内面の陰影を際立たせていたのも巧みです。穏やかで不思議な新婚生活の中で互いに心がほどけていく二人の関係は、作品を読み終わった後もなぜか心に残りました。ただ、ラストで敢えて救いを与えなかった理由については訊いてみたいです。