電撃小説大賞

第24回 電撃大賞 入選作品

メディアワークス文庫賞

「吉原百菓ひとくちの夢」※応募時「吉原百菓一口夢」より改題

著/江中みのり(兵庫県)※応募時「江中 農」より改名

受賞作品

メディアワークス文庫

吉原百菓ひとくちの夢

ひと口の菓子でつながる優しい“絆”――
花街・吉原で生まれる、人情と温もりの物語。

著者   : 江中みのり
イラスト : 殿ヶ谷美由記
定価   : 本体610円+税
発売日  : 2018年2月24日

プロフィール

海と山のある街に生まれ育った海派。とにかく本が好きで好きで仕方なくて、一日中本に触っていられる本屋勤めをしていたが、本を売るだけでは飽き足らず、本を書く側に手を出した。小心者の楽天家。一旦何かに惚れ込むと、熱しやすく冷めにくく、愛すべきものが世界に多すぎて困っている。好きなお菓子は蒸しパンとお餅。

受賞者コメント

「二年間だけ挑戦する」と決めていました。二年で結果が出なければ、もう小説は趣味に留めようと。その二年間の最後の最後に書き上げた小説で、こうして世に出ることを許されて、安堵すると共に、身の引き締まる思いです。選んでくださった方々と、支えてきてくれた方々と、まだ見ぬ多くの読者のために、精一杯、物語を紡ぎ続ける所存です。私の書いた物語が、誰かの希望になれる日が来ることを信じて。

あらすじ

『生きるための食事でなく、ひと時の幸福のための菓子を作る』
 江戸最大の花街・吉原で、最も料理が美味いと評判の見世〈美角屋〉。そこで菓子専門の料理番を務める青年・太佑は、日々訪れる客や遊女達のためにその腕を振るっていた。しかし、幼馴染で見世一番の花魁・朝露がひと口も太佑の菓子を食べていないことに気づき――
 切ない想いを秘め、懸命に生きる江戸の町の人々に、ひと口の菓子を届ける人情物語。

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

高畑京一郎(作家)

江戸という時代、吉原という場所について、よく取材していると思う。描写も巧みで読みやすい。舞台を吉原に限定した事で、作品のカラーは強く打ち出せたと思うが、反面、その制約に縛られ、個々のエピソードまで小粒になってしまった感がある。色彩の鮮やかさは群を抜いているので、映像媒体との相性は良さそう。

時雨沢恵一(作家)

江戸時代の吉原が舞台であり、しかもお菓子を作る料理番という主人公は斬新でした。一人の花魁との話がメインにはなっていますが、途中出てくる男臭いキャラクター達が魅力的で、吉原なのに男が輝いているという不思議な作品でした。

佐藤竜雄(アニメーション演出家)

料理の蘊蓄と美味そうに読ませる語り口がいい。とはいえ吉原を描くのは難しい。華やかさだけを描けば嘘くさくなり、かといって裏の部分を強調しても後味の悪さだけが残るのでボリューム的にはこのくらいが丁度良いのかもしれない。調理場でのやり取りを中心にするだけではなく、菓子作りというネタを上手く活かして吉原の「外」へ目を向ける展開を考えると話は更に広がるかと。

神 康幸(映像プロデューサー/株式会社オフィスクレッシェンド 取締役副社長)

菓子料理人、花魁、力士、若旦那……など、個性的な人物が次々と登場し、目の前に喧噪に満ちた八百八町が出現する。匂いさえ漂ってくる料理の数々、しっかりと調査されたディテールには力量を感じた。ただ、意識的なのか、登場人物は深掘りされておらず、未来も描かれていない。庭に咲く一輪の花のように、ただひたすら「今日」という刹那を描くことに力点が置かれたのか。続編が大いに期待できる作品である。

佐藤辰男(カドカワ株式会社 取締役相談役)

江戸中期、徳川家治・田沼意次の時代の吉原が舞台。高度資本主義社会のいまのわたしたちに、この時代の日本人、しかも吉原に生息する日陰の植物のような人たちのことを理解できるか。みんな痛みを共有しながら、ひっそりと生きている感じが、実にうまく表現されている。いまの人ならパティシエとして独立して花魁を身請けすることを夢見ていいのに、と思うが、そんな志は全くない人たちの生態を上手に描く。

和田 敦(電撃文庫編集長)

江戸時代特有の習慣や風俗と食べ物ものの融合ということで、何か新しさと引っかかりを感じた作品でした。江戸時代本来の食文化とは少し違いなどがあるかもしれませんが、その辺は読み物と割り切って楽しく読める作品に仕上がっていたかと思います。お菓子の種類と色々な悩みを抱えたお客というセットで、さらなるエピソードも生まれてくるのではないでしょうか。

佐藤達郎(メディアワークス文庫編集長)

遊郭の料理人、しかも菓子職人を主人公にした着想が面白く、江戸中期という時代の中での工夫を凝らしたお菓子がいかにも美味しそう。そして、吉原の絢爛も贅を尽くした膳も、そこに生きる花魁や料理人や客たちも、甘い菓子も淡い恋慕も、何もかもが渾然一体となって、まるで一夜の夢のように感じさせる余韻のある作品でした。抗えない枠の中で、それでも誰もが懸命に生きているからこそ、太佑が作るひと口で消える夢は、どこまでやさしくて甘いのかもしれません。