電撃小説大賞

第25回 電撃大賞 入選作品

銀賞

『世界の果てではじまりを』

著/冬月いろり(滋賀県)

電撃文庫

鏡のむこうの最果て図書館
光の勇者と偽りの魔王

これは勇者と魔王の決戦を陰で支えた人々の
《誰にも語り継がれないお伽噺》

著者   : 冬月いろり
イラスト : Namie
定価   : 本体630円+税
発売日  : 2019年2月9日

あらすじ

ふと気づくと、《最果て図書館》の館長・ウォレスには記憶がなかった。
世界の端っこに置き忘れられたこの図書館にいるのは、
無口なメイドと話の通じない《本の魔物》だけ。
ところがある日、はじまりの町の魔女見習い・ルチアと鏡越しに出会う。
徐々に魔王に侵食されていく世界を救うべく、
はじまりの町に現れた勇者を、
ルチアとともに影から支えることにしたウォレスだが、
やがて自分の記憶が魔王討伐の要であることに気づき――。
どこか寂しい彼らの、どこまでも優しい王道ファンタジー。

プロフィール

長野県出身の冬生まれ。冬は好きなのになぜだか毎年風邪を引きます。本を読んだり旅したりするのが好きで、食べることと眠ることも好きです。あとムーミンも好き。好きなものが沢山あるのは幸せなことだなあと思いつつ、今日ものんびり生きています。将来的にはムーミン谷にて、暖房器具満載で暮らす予定。冬ですか? 冬眠します!

受賞者コメント

この度は素晴らしい賞を頂き、選考に関わられた全ての皆様に心より御礼申し上げます。子供のころから大好きだったファンタジーの世界。まさかその書き手側になるとは、当時の私は知る由もありません。かく言う現在の私もいまだ理解が追いついていないらしく、「銀賞取ったんだよ!」と、時々自分に言い聞かせないと、いつの間にかふわっと頭から抜けていたりします。その度に思い出しては、ことの次第に震えています。いい加減覚えて欲しいです。

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

三雲岳斗(作家)

メルヘンチックなRPGを思わせる独特な世界観が魅力の作品。淡々と紡がれる静謐な文体も作品のイメージによく合っていると思います。その代償として、作中世界のスケールが小さく感じられてしまって少し勿体なかったかも。童話的な箱庭として割り切ってしまうならそれはそれでありですが、この作品ならではのワクワクするような設定が欲しかった気がします。また、主人公の立ち位置が傍観者的で印象が薄くなってしまったのがやや残念。ヒロインや脇キャラが個性的で魅力的だったので、彼らの視点で描いた物語も見てみたかったです。

三上 延(作家)

ゆったりしたテンポの前半と後半とのギャップが印象的でした。記憶を失った図書館主と離れた町にいる少女との交流というメインストーリーは個人的に好みです。物語が進んでも主人公の心情が変化に乏しいこと、伏線が不十分なまま登場人物たちの謎が終盤で一気に明かされるのは少々残念でしたが、きっちり盛り上がってきれいに終わるので読後感は非常に心地よいです。

吉野弘幸(アニメーション脚本家)

寓話的でとても読みやすく、淡々とした語り口が印象に残りました。ただ、寓話にしては軽すぎる部分があり、エンターテイメントにしては快楽の足りない感じをうけ、少しどっちつかずなのが気になりました。もしかすると、作者さん自身の迷いが原稿に出ていたのかもしれません。いわゆる『魔王勇者もの』の変形パターンに分類されると思いますが、そうであるが故に、もう一枚オルジナルなアイディアや、驚かしのどんでん返しが欲しかったように思います。でも、お話そのものはとても好みでした。

神 康幸(映像プロデューサー、株式会社オフィスクレッシェンド 取締役副社長)

面白い。僕は大好きだ。ドラクエ型の物語なのに、勇者が主人公ではなく図書館に幽閉されている男がメインになる構図。読み進むごとに、どんでん返しが待っている展開が予感されるものの、そのじらし方にも唸り。童話に求められるのは次世代へのメッセージだ。著者は「足掻くことの大切さ」を書き切っている。ただ主人公ウォレスのセリフニュアンスは、大人に振った方が良かったのではなかったか。

湯浅隆明(電撃文庫編集長、電撃文庫MAGAZINE編集長)

やわらかで素朴な雰囲気の世界設定、また寂しさを抱えるウォレスと元気なルチアのキャラクターは、それぞれ味わいはありつつ物語としては少しスロースタートな印象。中盤まではなかなかストーリーの本筋も見えてきませんが、それ以降は一気にお話が動き出し、巧みな種明かしや意外な真相、そこからのダイナミックな展開と、終わってみれば大満足な一編でした。まだまだ謎や裏設定などもありそうで、いろいろと気になる要素もある作品です。

高林 初(メディアワークス文庫編集長)

最果てにある伝説上の図書館という設定が素敵です。この物語の雰囲気を楽しむ、という読み方ができる作品だと思います。一方で、なかなか物語が動かずに中盤まで進んでしまうため、中だるみが気になります。最後に明かされる真実と序盤までのストーリーにほとんど繋がりがないのも残念なところ。物語を逆算して構成のメリハリをちゃんと考えていただいたほうがいいと思いました。せっかくのオチも、物語を終わらせるためにとってつけたような形になってしまい有効に使えていないため、非常にもったいないです。