電撃小説大賞

第25回 電撃大賞 入選作品

選考委員奨励賞

『逢う日、花咲く。』

著/青海野 灰(千葉県)

メディアワークス文庫

逢う日、花咲く。

これは、僕が君に出逢い恋をしてから、
君が僕に出逢うまでの、奇跡の物語。

著者   : 青海野 灰
イラスト : ふすい
定価   : 610円+税
発売日  : 2019年6月25日

あらすじ

13歳の時に心臓移植を受けた僕は、手術を受けた日から、
自分が見知らぬ少女になる夢を見るようになった。
科学的な根拠とかはどうでもよくて、これはきっと、今も優しく
鼓動してくれている誰かの心臓の記憶なんじゃないかと思う。
僕の病気によって家族はバラバラになってしまったけれど、
夢の中で彼女になっている間だけ、幸福で満ち足りる事が出来た。
でも、彼女の記憶を追う内に疑問が生じる。
明るく、希望に満ち溢れていた彼女は、
一体なぜ死んでしまったのだろうか……。
これは、あまりにも残酷で、あまりにも純粋な、初恋の物語――

プロフィール

子供の頃から空を眺めるのが好きで、この憂き世に片足でしか立てていないような感覚がありました。ペンネームは、過去に自分のテーマカラーの話になった時に、青みがかった灰色という意味で「青みの灰」と言われたのを、そのまま拝借しました。絶え間ない焦燥感を武器に変え、言葉の大海を足掻いていきます。

受賞者コメント

「サクラサク サクラサイタラ サクラチル」。うちの高校の卒業文集にこの川柳を書いた人はみんな小説家になったんだ、と教えてくれた先生がいました。その頃はこの世界に足を踏み入れる事は微塵も考えていませんでしたが、何となくあやかったら現実になりました。支えてくれた家族や、選考に携わった全ての皆様に感謝はもちろんなのですが、この先生にこそ、受賞の報せを届けたいな、と思いました。この度与えて頂いた可能性の道を閉ざさずに、サクラチらないよう、歩み続けていきたいです。

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

三雲岳斗(作家)

主人公たちの心情を繊細な筆致で丁寧に描き出していて、心地好く読むことができました。特殊な状況でありながら、登場人物たちの行動が自然で素直に感情移入することができます。ミステリ的なギミックの淡泊さや唐突なハッピーエンドについては、選考委員の間でも評価が分かれましたが、個人的には好みでした。テーマ的にも幅広い層に受け入れられる内容で、映像作品との相性が良いのではないかと思います。

三上 延(作家)

個人的にはミステリー要素の弱さが引っかかりました。謎解きで明かされる「手段」が現実的に難しいので、クライマックスでもう一ひねりあるのだろうと最後まで思いこんでしまいました。とはいえ心臓移植を使ったアイディアには独自性がありますし、なにより文章のクオリティが高いです。特に比喩が映像的で喚起力があります。超現実的な要素のあるラブストーリーとしては面白く仕上がっています。

吉野弘幸(アニメーション脚本家)

個人的にはとても楽しく読めて、上位に推した作品です。選考にあたっては、おそらくアイディアの元になっただろう、先行するいくつかの作品との類似性などが議論となり、奨励賞という落としどころとなりました。ただ臓器移植というアイディアでこの話を実現させた部分はオリジナルだと思いますし、スッと読めて入ってくる文章も良かったと思います。ラストにもう一度、見え見えの予定調和ではなく、読者をあっと言わせるドンデン返しがあったら満点でした。

神 康幸(映像プロデューサー、株式会社オフィスクレッシェンド 取締役副社長)

数々の名作を生み出された脚本家の大石静さんが「私は、見たいシーンを順番に書く」とおっしゃっていたことを思い出した。この作家さんは、正にその才能の持ち主。だから興味が尽きない。文章も詩的で美しい。主人公の男の子は、見知らぬ女の子から心臓移植を受けて夢を見る。その夢に「その女の子」が常に出てくるということに強烈な違和感を感じた。鏡がなければ客観視できないはずだ。そう思う僕はお爺さん過ぎるのか。

湯浅隆明(電撃文庫編集長、電撃文庫MAGAZINE編集長)

ヒロインを主人公ががんばって助け出す青春もの、という昨今流行の題材ではありますが、移植された心臓を橋渡しにしてのコミュニケーションという設定がユニークで差別化を図れています。またこの「心臓」というキーパーツが謎と緊張感を生み出していて、先が気になるように描けていました。ところどころ詰めの甘さを感じ、またラストがやや唐突……など問題点もありますが、読者をしっかりと楽しませる力のある作品でした。

高林 初(メディアワークス文庫編集長)

心象風景も使いこなせている丁寧な文章で、作品に合っているように感じました。一方、丁寧すぎる分、冗長なところもあります。説明するより、感情の激しさを肉声で表現したほうがよかったかもしれません。特に一人称の青春小説なら、なおさらビビッドになるはずです。意外性のある展開で序盤は引きつけられました。ですが、犯罪者の教師と対決するという展開が、果たしてこの物語のクライマックスになってよいのか悩みます。彼女を救うためには自分が死ななければならないという葛藤、二人がそのことに涙する、という要素が薄くなってしまったように感じました。