※本作はniconico「ニコニコ連載小説」内「電撃文庫チャンネル」で掲載された作品の再録です。


【韻が織り成す召喚魔法-バスタ・リリッカーズ-
『-海賊ラジオ編-』




[キャラクター紹介]

マミラダ・リファソラ・メフィストフェレス(以下、マミラダ)
大悪魔メフィストフェレスを父にもつヒップホップ好きの女悪魔。契約した真一に魔道具サタニックマイクを渡す。真一の魂を奪って魔界で結婚したいと考えている。巨乳。普段は悪魔の姿を隠している。

司馬坂軍馬(以下、司馬坂)
鏡波学院三年四組の男子で、ヒップホップ研究部の部長。数々の破天荒な伝説をもち、摩訶不思議な言動が多いことから「クレイジーホース」の異名をもつ。ケンカも強いという噂だが、真偽は不明。

音川真一(以下、音川)
鏡波学院二年八組の男子で、「校則の守護神」と呼ばれる真面目で品行方正な生徒会長。日頃から鬱憤が溜まっており、胸中で攻撃的な言葉を吐く癖がある。友達はいない。趣味はクラシック鑑賞。


 ――ここは鏡波学院高等部。
 午前の授業から解放された生徒たちは、教室や中庭、屋上といった場所で、弁当を広げながら友人との歓談を楽しんでいる。
 そんな穏やかな昼休み。校内のいたるところに設置されたスピーカーから、にぎやかな声が聞こえてきた――
          ◇

マミラダ
みなさん、こんにちわー。あなたのお昼を楽しく彩るラジオ番組、『マミラダのストライク・ライク・ライブ』の時間がやってきましたよー。
メインパーソナリティはみんなのハートを一撃どっきゅん、ヒップホップをこよなく愛する学院の小悪魔系アイドル、マミラダ・リファソラ・メフィストフェレスでーす。
そして今回お呼びしたゲストは……。

司馬坂
「最初はグー」でじゃんけんをしたなら、やはり「最後もグー」の挨拶で締めくくりたくなるヒップホップ研究部の部長、クレイジーホースこと司馬坂だ。リスナーのみんな、俺ッチの美声に聞き惚れて、白ご飯にイチゴジャムをかけんじゃねーぞ? その技は危険すぎるからな。

マミラダ
この番組は学院の放送室を勝手に占拠して、生放送でお届けしていまーす。いわゆる海賊ラジオってやつだね!

司馬坂
ククク、さすが姫だ。海賊ラジオなのに、きちんと番組タイトルまで決まってやがる。
修学旅行に酔い止めの薬を持っていくときみてーな抜群の安心感だぜ。

マミラダ
リスナーのみなさんも、今度私たちヒップホップ研究部が校内ライブをすることは知ってるよね?
今日はライブの宣伝も兼ねて、みんなの質問になんでも答えちゃうよー。ヒップホップの素晴らしさについても、たくさん語っちゃうからね! チェックしとけー?

司馬坂
ところで姫。なぜここに会長さんがいない? そもそも奴は『韻が織り成す召喚魔法』の主人公じゃなかったのかい?

マミラダ
だって真一に話を通すと、「勝手に放送室を使うなー」とかうるさそうだからさぁ。あの人ラジオ向きのユーモアセンスもゼロだし?


          ◇

 ――そのとき当の主人公である生徒会長の音川真一は、一人で中庭を歩いていた。
 校則違反者を取り締まるために、昼休みと放課後に行なっている校内の定期巡回。これは真一が自主的にやっている日課である。
 そんな真一の表情は、スピーカーから流れるラジオ放送を聞いて、みるみる怒りで歪んでいく――


音川
勝手なことをするなって言ったはずなのに、あのクソアマがぁ……。口の中に七味とショウガをぶちこんで、そのまま顔面をうどんのダシに沈めてやろうか……?

          ◇

マミラダ
じゃあじゃあ、さっそくおハガキを読んじゃうよ!

司馬坂
ククク、海賊ラジオなのにハガキがきているなんて、ワケがわからねーぜ。二次会で急にボウリングへ行くことが決まったのに、カバンの中からマイボールが出てくるくらい、ワケがわからねーぜ。

マミラダ
不思議だねー。きっと鏡波学院には私のファンがいっぱいいるんだよ。じゃあこれ、一枚目。ラジオネーム「百合系同人誌コレクター」さんからです。
なんだかハードな名前だな。えっと、なになに……。

『マミラダさんはヒップホップ研究部のプロデューサーということですが、普段は何をされているんで
すか?』

マミラダ
なるほどー。確かに私はこの学院の生徒じゃないし、みんなも気になるところだよね。
ミステリアスな存在ってやつ?

司馬坂
その謎を解き明かしたいってわけかい。だったらラジオネーム「百合系同人誌コレクター」は、スーパーヒトシ君を没収される危険性も承知の上ってわけだな。その心意気や良し。

マミラダ
司馬坂さんの言ってる意味はわからないけど、答えておくね。
私は人間界でも有名な大悪魔、メフィストフェレスの娘なの。だから職業は悪魔ってことになるね。仕事内容は契約した人間に力を与えて、その人を見守ること……になるのかな?

司馬坂
ククク、さすが姫だ。学院の小悪魔系アイドルっていうコンセプトがしっかりしてやがる。

マミラダ
最近だと、学校がある日はヒップホップ研究部のライブ練習に参加したり、こうやってライブの広報活動をしたりしているよ。休みの日は真一と遊んだり、大好きなヒップホップのCDを聴いたりかな。あと夜はいつも、真一のベッドで一緒に眠るんだ。むふー。

司馬坂
ようするに、会長さんと夜は墓場で運動会ってわけか。クク、試験もなんにもないぜ。
ところで姫。仮に姫が本物の悪魔だとして、なんでヒップホップが好きなんだい?

マミラダ
昔、私を召喚した人がヒップホップ界の重鎮でさー。その人に会ってからヘッズ(ヒップホップ中毒者)の仲間入りをしたってわけ。らぶりー、ヒップホップ!
じゃあ次のおハガキにいこうかな。
二枚目はラジオネーム「究極の正義(アルティメット・ジャスティス)」さんからのおハガキです。
さっきのハガキもそうだけど、この名前もなんか気になるな。まあいいや。
『マミラダさんと生徒会長って仲良さそうに見えるけど、どんな関係ですか? ちゃんと答えてくれないと神の裁きがくだりますよ』

マミラダ
なるほど、いい質問だねー。
さっき私は悪魔って言ったけど、その私を召喚したのが真一なの。もちろんカタブツ生徒会長の真一に魔術の知識なんてないから、召喚できたのは偶然なんだけどね。
まあ経緯はどうであれ、私を召喚した真一には私の契約者になってもらったの。
真一って普段は超真面目だけど、心の奥に攻撃的なドス黒い感情を溜め込んでるじゃん? 私はそこに惚れちゃってさ、旦那様候補にもしてあげたんだよー。照れる照れるぅ。

司馬坂
ククク、二人の関係をたとえるなら、交通車両とタオルって感じだな。

マミラダ
なにそれ?

司馬坂
やがて二つは合体して、バスタオルになる。つまりバスは製造されたときから、タオルの契約者ってわけだ。

マミラダ
司馬坂さん、バスタオルの「バス」は交通車両のことじゃなくて、「お風呂」って意味だよ。

司馬坂
姫さんよ、ふざけるのもたいがいにしろ。だったらバス停には風呂があるって言うのかい?
そりゃあ便利だろうさ。なにしろ寒空の下でも、温まりながらバスが来るのを待っていられるんだからな。ん、待てよ。そうか、それがバスタイムの語源か……勉強になるぜ。

マミラダ
というわけで私と真一は将来を誓い合った仲、ということになります。おわかりいただけたかな、ラジオネーム「究極の正義(アルティメット・ジャスティス)」さん。

司馬坂
さすが姫。きちんと引き際をわきまえてやがる。

マミラダ
じゃあそろそろ、最後のおハガキに行くよ。ラジオネーム「平成カメラ三部作」さんから。

『この間、ヒップホップ研究部の人が一般生徒に変なラップで話しかけていたんでゲスが、あれってなんでゲスか?』

マミラダ
この口調って、あの人かな。ハガキにまで口癖を入れてくるなんて面白いなー。
まあそれはともかく、とてもいい質問だね。
ここはヒップホップ研究部部長の司馬坂さんに答えてもらうべきかな。

司馬坂
いいだろう。質問に答えてやるぜ「平成カメラ三部作」さんよ。
そのヒップホップ研究部の野郎は、相手の生徒に道を尋ねていたのさ。

マミラダ
は?

司馬坂
奴らはみんな、荒野をさまよう旅人なんだ。だからラップで人に話しかける。「私が求めるヒップホップはどこですか?」ってな。北風が身にしみるぜ。
わかったか、「平成カメラ三部作」さんよ。

マミラダ
絶対わからないと思うから、やっぱり私が答えるね。
「平成カメラ三部作」さんの質問だけど、その一般生徒はフリースタイルのラップバトルを挑まれたんだと思うよ。
ラップバトルっていうのは、韻を踏んだリリック(歌詞)を即興で作って、おたがいを攻撃し合う論争のことなの。
おおまかなポイントは、上手に韻が踏めているか、いかにパンチライン(印象的なリリック)を繰り出せるかの二つ。即興力と語彙、そしてセンスが必要な知性の格闘技……それがラップバトルなんだよ。

司馬坂
詳しく知りたい奴は、ニコニコ動画で「フリースタイル」「ラップ」で検索してみてくれ。熱いバトルが見られるぜ。


 ――バン!
 そのとき、放送室のドアが乱暴に開き、怒りの形相をした真一が飛び込んできた――


音川
……ラジオネーム「校則の守護神」さんからの質問だ。テメェら、生徒会長の俺を通さず、勝手にワケのわからん放送を流しやがって、どういうつもりだ?

マミラダ
おおっ、ちょうどいいところに来てくれたね真一。

司馬坂
ククク、さすが姫だ。ちゃんと会長をゲストとして呼んでいたなんてな。安心しすぎて、買ったばかりの電子レンジの保証書を破いてみたくなったぜ。

音川
電子レンジどころか、テメェらの心臓を破いてやろうか?

マミラダ
邪悪な部分が出てるよ真一。さてリスナーの皆さん、今からラップバトルの実践をしますね。司馬坂さん、準備はいい?

司馬坂
愚問だぜ姫。風さえあれば、風車はいつでも回っているもんさ。

マミラダ
じゃあ行くよ、レディ、スタート!

音川
あ、待て、おい!

司馬坂
【YO、YO、チェケラ。
 遅れすぎだぜ会長さん、今すぐ言いなよ、はい降参。
 ワケのわからん放送だ? 言われたところで嘲笑だ。
 こっちはライブの宣伝に命がけ。そっちはマイクの電源をオフるだけ。
 今すぐ裸足で逃げ出しな。それじゃあ会長、また明日】

マミラダ
いいねー司馬坂さん。普段はアホなことを言ってるけど、きちんとラップしてるじゃん。
ちなみにリスナーの皆さん、これは別に司馬坂さんが真一を嫌っているわけじゃないんだよ。ラップバトルでは「ディス」って言って、相手を罵りながらリリックを繰り出すことが、パンチライン(印象的なリリック)を紡ぐ基本になるの。
でも、まだまだディスが足りないかな。ほら、真一もラップでアンサーを返さないと。

音川
くっ、この野郎……俺がヒップホップを嫌っていることも知ってるくせに……。

司馬坂
ククク、さすがは姫。厳しいことを言ってくれるねえ。
会長さんもアンサーを返してこないことだし、俺ッチのターンはまだまだ続くぜ。
【どうしたんだい会長さん? ひょっとしてその顔、パイクーハン? 
 ウケ狙いはもういいよ、あんたの耳は遠いーの? 
 帰れって言ってるのが聞こえねえ? 立ち振る舞いもぎこちねえ】

マミラダ
いいねー! 別に似てないけど、アニメキャラを使ってディスるなんて、これは屈辱的だよ!
ほら真一、いつまでボーっと突っ立ってるの。このラジオは全校生徒が聞いてるんだよ。何か言い返さないと、支持率も下がっちゃうよ。もうすぐ生徒会選挙なんでしょ?

音川
くっ、仕方がない……
…………………………ノイズを取る、このマイクバトル。


 ――真一がそうつぶやいた瞬間、彼の右手から白い閃光が放たれた。
 それは右手のひらに収束していき、一本のマイクに変化する。カラオケなどでお馴染みの、オーソドックスなアイスクリーム型のワイヤレスマイクだ。唯一違う点といえば、丸い集音部分のやや下側に、ブローチのようなドクロの装飾が取り付けられていることだろうか。
 真一が司馬坂にそのドクロの両目を向けたとき、どこからともなく単一のフレーズをくり返すだけの重低音なバックトラックが流れてきた――


マミラダ
おおっ、ここで私が契約者の真一に与えたサタニックマイクを召喚するなんてね!
これは面白くなってきたよー!

音川
……言いたい放題言いやがって、覚悟はできてるんだろうなコラァッ! 
【勝手なラジオはガチ騒音、そのうえ浴びせる罵詈雑言。
 俺の血管はブチギレた、戦国武将の討ち入りだ。
 ここから始まる包囲網、逃げ出すなんて超無謀】


――真一はサタニックマイクを通してリリックを放った。
 すると放送室のドアから、陣羽織姿の武士たちがどかどかと入室してきた。彼らはそれぞれ刀を構えており、これから仇討ちをするかのような恨みの形相で、マミラダと司馬坂をぐるりと取り囲む。
 韻を踏んだフレーズを具現化する力。
それがサタニックマイクの効力なのだ――


マミラダ
うわー、すごい! これが日本のサムライってやつ?
ちょーかっこいいんですけど! いいものを召喚してくれたねー。

音川
これだけで済むと思うなよ、メスブタに似非ガンマンがぁッ!
【今日の仕置きは徹底的。やってきたのは戦闘機。邪悪な輩は即射撃。
 搭載兵器はガトリング、そろそろここでエンディング。
 みんな蜂の巣上等だろぉ? 韻が織り成す召喚魔法】


 ――そのラップに合わせて、放送室の南側の壁がいきなり雲の浮かぶ青空に変化した。
 青空のはるか向こうからは、まばゆい太陽を背負う形で国籍不明の戦闘機が一機、放送室に向かって猛スピードで飛来してくる。搭載したガトリング砲を「パタタタタ……!」と激しく乱射しながら――


司馬坂
ククク、さすが会長さんだぜ。あんたのラップはフライパンに落としたバターのように香ばし……ぐはあああああッ!?


――哀れにもガトリング砲の餌食となった司馬坂は、不器用なタップダンスを踊るかのように体をくねらせながら、その場に崩れ落ちた。続けて彼の周囲で待機していた陣羽織姿の武士たちが、倒れた司馬坂に容赦なく刀を突き立てていく――


マミラダ
あらー大変だね、司馬坂さん。でもまあ、サタニックマイクが召喚する物体は全部幻影だし、肉体的なダメージは受けないから安心してね。
それにしても、さすが真一だよ! ドス黒い鬱憤をラップに乗せて、次々と攻撃的な幻影を召喚する最強の召喚魔法使い! やっぱり私の旦那様は真一しかいないよ!

音川
【テメェはもう喋るなぁ! 次に来るのはショベルカー! 俺と一緒に遊べるかぁ!?】


――今度は放送室の壁をすり抜ける形で、黄色いボディのショベルカーがキュラキュラと音を立てながらゆっくりと侵攻してきた。そして大きく振り上げたアームを司馬坂に向かって、無慈悲なまでに振り下ろす――


マミラダ
えー、なにやら放送室が騒がしくなってきたので、ここで『マミラダのパンプキン・パンク・ジャンプ』を終わりたいと思いまーす。みなさんお付き合いくださって、ありがとうございましたー。

司馬坂
ククク、さすが姫だ。番組名が最初と変わってやがる……ぐはぁッ!

マミラダ
エンディング曲はアニメ『絵で見るデビル・セシルちゃん』より、『あくまで悪魔』でーす。まったね~。

「あなたのハートを射抜くわっ、私は魔界の小悪魔っ♪ (……フェードアウト……)」



<おわり>