第21回 電撃大賞 入選作品
電撃小説大賞部門

大賞受賞作

『ひとつ海のパラスアテナ』 ※応募時の原題『陸なき惑星のパラスアテナ ~二少女漂流記~』より改題

著/鳩見すた ※応募時の「鳩島すた」より改名

電撃文庫

ひとつ海のパラスアテナ

著者   : 鳩見すた ※応募時の「鳩島すた」より改名
発売日  : 2015年2月10日

ボクが育ったこの海は、ときに美しく、ときに残酷だ。

ボクが育ったこの海は、ときに美しく、ときに残酷だ。

あらすじ

透き通る蒼い海と、紺碧の空。世界の全てを二つの青が覆う時代、『アフター』。セイラー服を着た14歳の少女アキは、両親の形見・愛船パラス号で大海を渡り荷物を届ける『メッセンジャー』として暮らしていた。ある日、オウムガエルのキーちゃん船長を携えたアキは、航行中に恐るべき『白い嵐』に遭遇、船を失って浮島に取り残されてしまう。そこは、見渡す限り青い海が広がる孤立無援の島だった……。アキとキーちゃん船長の、『生きるための戦い』が始まる。

受賞者プロフィール

神奈川在住。用水路沿いを歩くといまだに「ザリガニいないかなー」と覗き込むタイプのいい大人。書いた文章で誰かが笑ってくれることに何よりの幸せを感じる。好きなものは犬と日記とカレー味。ライフワークは八重山諸島の探検で、将来の夢は自宅ゲーセン。

受賞者コメント

この度は身に余る賞をいただき、誠に光栄に存じます。小説家になりたいと思ったのは小学生の頃。しかしその時思っただけで、ひねもすのたりと二十余年。去年の元旦に「そうだ。小説書かなきゃ」と思い出し、以後遅れを取り戻すべく毎月一作執筆していたところ、こうして拾っていただけました。選考に携わった皆様にこの場を借りて心から御礼申し上げます。

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

  • 高畑京一郎(作家)

    潮の香りどころか魚の生臭ささえ漂ってきそうな、海の描写が秀逸。反面、「いついつまでになにかをしなくてはならない」という切迫した条件が無く、漂流期間中も妙にのんびりした感じが漂っている。それが味でもあるのだけれど、その分、ストーリーの推進力が弱まっているのは否めない。

  • 時雨沢恵一(作家)

    海洋冒険物として、作者の持つ知識の豊富さ、そして強烈なサバイバル描写が素晴らしい作品でした。主人公が少女二人というのも、インパクトがありました。メインの男性キャラクターがまったくと言っていいほど出てこないというのは、ライトノベルでは珍しいと思います(私が知らないだけでしたらすみません)。冒頭の伏線にはすっかりと騙されたので、終盤はドキドキハラハラでした。

  • 佐藤竜雄(アニメーション演出家)

    電撃で海洋ものは珍しいのでは。しかも描写が的確で臨場感に溢れています。ヒロインの少女が「明るいひきこもり」で、生存のための術は知っているけれど、生きることへの意義に迷っている。そんな彼女がキーちゃんを食べて生き延びたから死ねない、と必死に踏みとどまるところは泣けた。漂流記ゆえか、なかなか物語の山場が出来ない点はちょっと残念。あと、名前つけに絡めたミスリードが上手く機能していなかったのも惜しかった。

  • 荒木美也子(アスミック・エース株式会社 映画プロデューサー)

    サブキャラがとても魅力的な海洋ファンタジー小説。ドリルもさることながらオウムガエルのキーちゃんの使い方は秀逸で見事に泣かされました。アキとタカのキャラクター設定もしっかりしていて良かったです。本小説ではシーローバーと漂流者たちの2つの世界ですが、続篇では新たな世界の創出を期待します。

  • 鈴木一智(アスキー・メディアワークス副BC長・第2編集部統括編集長)

    第一印象は二人の少女を主人公にした未来少年コナン(ちょっと萌え入り)。文章は極めて平明で、実は結構エロかったりエグかったりするシーンも抵抗感なく読ませてしまいます(こういう“さり気ない上手さ”というのは執筆技術に長けていなければ出来ないものです)。航海術やサバイバルのノウハウについても経験的知識に裏打ちされているようなリアリティがあり、それが物語の厚みとなっています。伏線の設置と回収もスムーズに行われており、余韻を残すエンディングも印象的。オウムガエルのキーちゃんは今年の最優秀助演賞でした。あとドリルさんも(笑)。

  • 三木一馬(電撃文庫編集長、電撃文庫MAGAZINE編集長)

    応募作の中で、一番コンセプトが明確で、ストーリー構成も揺るぎない、まさしく『エンターテイメント』作品でした。世界観としては厳しい環境下に置かれているにもかかわらず、明るく元気よく動き回る主人公の少女に誰もが魅了されてしまうと思います。『彼女はこのあとどうなってしまうんだろう』と、読んだ人全員が先を知りたくなるパワーを持っていました。

  • 佐藤達郎(メディアワークス文庫編集長)

    広大な海原を疾走する双胴船と、それを操るメッセンジャーの少女。色鮮やかな映像が目に浮かぶインパクトのある作品でした。水没した世界に浮かぶフロートの島々でかろうじて人類が生き延びている様を、リアルに描ききった手腕も見事です。そして、そんな世界に生きる対照的な二人の女の子が、とにかくたくましくて可愛らしくて魅力に溢れていました。二人を繋ぐ共通の目的があると、物語がもっと引き締まっていたと思います。

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