第21回 電撃大賞 入選作品
電撃小説大賞部門

大賞受賞作

『φの方石(ファイのほうせき) ―白幽堂魔石奇譚―』 ※応募時の原題『φの方石』より改題

著/新田周右

メディアワークス文庫

φの方石(ファイのほうせき) ―白幽堂魔石奇譚―

著者   : 新田周右
発売日  : 2015年2月25日

人々を狂わす「魔石」をめぐる、現代幻想奇譚。

人々を狂わす「魔石」をめぐる、現代幻想奇譚。

あらすじ

人々を魅了してやまない、様々な服飾品に変じることのできる立方体、方石。この技術のメッカである神与島で、アトリエ「白幽堂」を営む白堂瑛介は17歳の若き方石職人。東京からやってきた下宿人の少女・黒須宵呼とともに暮らしている。ある日、知人の方石研究者・涼子の依頼で連続方石窃盗事件を追うこととなった瑛介は相棒・猿渡とともに調査を開始するが、そこには宵呼を巻き込んだ驚くべき真実が隠されていた――。

受賞者プロフィール

大阪府出身。O型。おとめ座。好物は、寿司、ステーキ、天ぷら、ルマンド。他の人よりも微かに顔が濃いためなのか、よく海外の旅行者に道案内を頼まれる。ある日、NGKに金髪碧眼の来阪者を案内しながらふと思った。果たして彼らに、新喜劇の面白さが伝わるのだろうかと。実際、どうなんやろ。

受賞者コメント

まいど、新田周右と申します。兄と慕う先輩とふたり、「何かおもろいことあらへんかなあ」とこぼし合った学部時代。お金のなかったぼくは、ひっそりと元手のかからない趣味を始めました。ぼくにとってのおもろいことが、誰かにとってのおもろいことになる。こんな素敵なこと、他にないと思います。趣味の延長線上で行った応募ではありましたが、今回賜りました小説の世界とのご縁を、大切に育てていけたらいいなと考えております。

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

  • 高畑京一郎(作家)

    『方石』の設定がギミックとして面白い上に、よく練られている。主人公が抱えている秘密も面白かった。世界設定がしっかりしているので、宝探し的な冒険譚や過去の謎を探るような推理ものなど、いろいろな展開が可能だと思う。

  • 時雨沢恵一(作家)

    非常に高い文章力と、着る魔法のような“方石”という架空の存在にリアリティを持たせる丁寧な描写が印象に残った作品でした。途中に明らかになる主人公のかなり意表を突く正体にも、しっかりと驚かせていただきました。大賞の二作品は、私の中でも同じくらいの高評価だったので、この結果には満足しています。

  • 佐藤竜雄(アニメーション演出家)

    天才的な能力を持った主人公のところに素人同然のヒロインが同居して……というパターンはよくあるが、方石のアイディアが斬新。単なる戦闘用スーツのための方便ではなくて、歴史的な意味とか社会の中での位置づけであるとか、そっちの方を描くと面白そう。話の方も、主人公の秘密が判明してからは俄然面白くなった。主人公の虚無感に説得力が生まれて、ヒロインの父親への怒りも納得できる。

  • 荒木美也子(アスミック・エース株式会社 映画プロデューサー)

    宝石ならぬ方石で、歴史ファンタジーとして題材も新鮮。主人公瑛介はミステリアスな魅力もあり、宵呼との会話の掛け合いもとてもテンポよく読めました。一方で、瑛介を教院にわざわざ引き込んだ涼子について、それなりのオチがあるのかと期待し読み進めていたのですが、ラストに至っても何もなく話からフェードアウト……そこだけは消化不良で残念でした。

  • 鈴木一智(アスキー・メディアワークス副BC長・第2編集部統括編集長)

    衣装化する異能アイテムである“方石”の設定がとにかく秀逸。ガジェットとしての有用性に優れており、工芸品的な趣があるのも面白い。これを思いついた時点でこの作品は半分成功していたと言えるかも知れません。地道に書き綴っていくタイプのストーリーは導入から中盤がややもどかしいのですが、この積み上げが後半のネタバラシや映像的なラストバトルで効いています。書き手の年齢や物語の建て付けを考えると今後の世界観の広がりにも期待できる作品です。

  • 三木一馬(電撃文庫編集長、電撃文庫MAGAZINE編集長)

    この作品には文化の香りを感じました。この世界に『方石』というものがもし存在していたら、というIfが綿密に練られ組み込まれています。『史実』であったように描かれるそれは、作者脳内の確固たる信念から生まれているものだと感じました。その一端に触れられることが、読書の楽しみの一つであると思っています。もちろん、瑛介くんと宵呼ちゃんの初々しい『イチャイチャっぷり』も高評価でした。

  • 佐藤達郎(メディアワークス文庫編集長)

    組み込まれた組成式によって服飾に変化する「方石」という発想がユニークでした。歴史的名作をモチーフにした「梔子連作」というアイテムが、作品に彩りを加えていたのも良かったです。いろいろな仕掛けが施された作品でしたが、方石に隠された主人公の真の姿が明かされたときは、思わずやられたという感じでした。脇キャラをもっとしっかりと物語に絡めると更に面白くなると思います。

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