第21回 電撃大賞 入選作品
電撃小説大賞部門

銀賞受賞作

『レトリカ・クロニクル 嘘つき話術士と狐の師匠』 ※応募時の原題『レトリカ・クロニクル ~狼少女と嘘つき話術士~』より改題

著/森 日向 ※応募時の「日向 夏」より改名

メディアワークス文庫

レトリカ・クロニクル 嘘つき話術士と狐の師匠

著者   : 森 日向 ※応募時の「日向 夏」より改名
発売日  : 2015年2月25日

話術を武器に難局を切り開く。心優しき詭弁使いと狐の師匠の旅物語。

話術を武器に難局を切り開く。心優しき詭弁使いと狐の師匠の旅物語。

あらすじ

かつて人間と獣人との戦いに巻き込まれ命を落としかけた少年シン。彼は狐の話術士カズラに助けられ、以来旅をともにして立派な話術士の青年へと成長していた。そんな二人は旅先の街の商店で狼の部族の若き族長の少女レアと出会う。大量の武器を買いに来た彼女は部族間の紛争に悩んでおり、シン達はその手助けをすることに決めた。だが、やがて大きな陰謀に巻き込まれていくことに……。巧みに言葉を操って難局を切り抜け紛争を解決する、話術士の青年と狐の師匠の物語。

受賞者プロフィール

岐阜出身、東京在住。色黒な理系研究者。主な材料は酸素、炭素、水素、窒素、カルシウム、リンで、味付けは妄想とテニスと研究。それから隠し味に小説が少々。最近は隠し味の量が増えており、ちょっと変わった風味になりつつある。目論見より早くデビューできることになり、自分でも驚いているところ。

受賞者コメント

私にとって電撃大賞といえば、自分の大好きな数多くの小説を輩出した雲の上の存在です。それでも作家を夢見て投稿し続け、結果、ほとんど1次・2次選考落ち。ところがある日、それらしい番号から電話が掛かってきて、手にしていた実験器具を投げ捨て電話に出た結果……郵便局からでした。どうしてくれる! ちなみに本当の連絡はその夜にありました。ともあれ、今回はぎりぎりの受賞だと思っていますので、今後精進します。

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

  • 高畑京一郎(作家)

    話術士という設定が面白い。しかし、肝心の主人公の話術・論理が弱く、読んでいて「これで説得されるだろうか?」という疑念が湧いてしまう。また、論理のアクロバットを鮮やかに決めるためには基本ルールがあらかじめ明確である必要があるが、世界設定が漠然としすぎているので、結果的に効果を薄れさせてしまっていると思う。

  • 時雨沢恵一(作家)

    今回受賞の中では、一番ファンタジー色の強い作品。しかし主人公が直接武力では戦わないという、珍しい設定が光っていたと思います。ラストの敵も含めて、主人公が“殺さない”という流れも。主人公達は流れ者なので、今回仲良くなったヒロインとは別れてしまうのかと思うと切ないですね。

  • 佐藤竜雄(アニメーション演出家)

    話術士が話術で解決してない。むしろ見習いでよかったのでは? もう少し主人公の芯の強さが中盤までに垣間見れれば話術の巧みさ云々なくても凄みは出せたと思う。自分の死すら交渉の一手段にするしたたかさがもっとシビアに描かれていれば竜人ネタはOK。エピローグで描かれた少年時代の決意を読んで「成る程!」と思わせるためには今の主人公の行動原理を明確にすべきだった。クールな中に潜む真摯さというか。

  • 荒木美也子(アスミック・エース株式会社 映画プロデューサー)

    「肝の話術の内容が致命的」と審査員各位から激しい突っ込みがあったものの、私個人は童話のような世界観が好きで、童話と思えば話術の内容がそこそこでもさほど気にならずに面白く読めました。ただ、熊と狼の禁断のトップ同士のロミオとジュリエット的恋の行方にどう話術士の話術が絡んでくるラストになるのか期待していたので、突如レアとシンの関係に転化されてしまい、肩すかしとなり残念!

  • 鈴木一智(アスキー・メディアワークス副BC長・第2編集部統括編集長)

    人間と獣人が共存するファンタジー世界を舞台に繰り広げられる話術師シンの物語。簡潔で読みやすい文章、オーソドックスながら存在感のあるキャラ、突飛な展開はないものの順等に盛り上がるストーリーライン等々、余計な演出が抑えられているぶん物語の輪郭がくっきりと描き出されています。主人公の話術師スキルについては物足りなさを感じるものの、これは巻を重ねる毎に主人公・作家共に成長していくでしょう。是非とも第二の『狼と香辛料』を目指して頑張って頂きたい。

  • 三木一馬(電撃文庫編集長、電撃文庫MAGAZINE編集長)

    ファンタジー世界で狐の化身と共に話術師として調停役を担う……という設定は、空気感が支倉先生の『狼と香辛料』を、ロジックが上遠野先生の『事件シリーズ』を彷彿とさせますが、読者がとても好きな分野ですし、この作品なりのオリジナリティがしっかり出ていたと思います。ただ肝心の話術については、説得力や人を欺く『思い切り』が弱かったのが惜しかったです。個人的には、ヒロインはレアではなくカズラ先生だと思いました。シンはむしろそっちとくっつくべき。

  • 佐藤達郎(メディアワークス文庫編集長)

    話術士の青年と師匠の女狐の師弟関係が微笑ましく、二人の結束と信頼の強さが伝わってきて好感が持てる作品でした。ラストの処理に改稿が必要になってしまいますが、二人のロードムービーとしてわかりやすくシリーズ化が想定できた作品でもありました。詭弁論理学的な話術で全てを解決していくのは爽快ですが、もっと詭弁を弄して欲しかったです。また、舞台となる世界に曖昧な部分が多かったので、もう少しリアリティを出してファンタジーならではの楽しさを演出して下さい。

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