第22回 電撃大賞 入選作品
電撃小説大賞部門

銀賞受賞作

『血翼王亡命譚Ⅰ ―祈刀のアルナ―』

著/新 八角

電撃文庫

血翼王亡命譚Ⅰ ―祈刀のアルナ―

著者   : 新 八角
発売日  : 2016年3月10日

国を追われた王女と、血染めの護衛剣士の運命を描く、珠玉のファンタジー

国を追われた王女と、血染めの護衛剣士の運命を描く、珠玉のファンタジー

あらすじ

〔私は駄目な王女だからね。自分のために命を使いたいの〕
耀天祭の終わり、赤燕の国の第一王女が失踪した――。だが、それは嘘だと俺は知っている。太陽を祀る五日間、彼女は王族の在り方に抗い、その想いを尽くしただけ……。突如国を追われた王女アルナリス、刀を振るうしか能のない幼馴染みの護衛ユウファ、猫の血を秘めた放浪娘イルナに人語を解する燕のスゥと軍犬のベオル。森と獣に彩られた「赤燕の国」を、奇妙な顔ぶれで旅することになった一行。予期せぬ策謀と逃走の果て、国を揺るがす真実を目にした時、彼らが胸に宿した祈りとは――。これは歴史の影に消えた、儚き恋の亡命譚。

受賞者プロフィール

大きくて緩慢な河の近くで生まれた人。小川で石を並べ、水を堰き止めて小さな堤防を作ったり、浜辺に座って白波が砂に浸み込んでいく様を眺めたりすることが好きです。日々、水辺で遊ぶための言い訳を探しながら生きているような気がします。

受賞者コメント

銀賞を賜りまして、誠に光栄に存じます。自分の書いた物語を市場に出せるということが嬉しく、実際に本が読者の手に渡ることを想像する度、幸福を通り越して胃がきりきりと悲鳴を上げる毎日です。しかし、この受賞は私が舞台に上がることを認めて頂いたに過ぎません。拍手を頂けるか、離席をくらうかは、ひとえにこれからの上演次第だと思っております。弛まず努力を続けたいと思いますので、今後とも宜しくお願い致します。

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

  • 高畑京一郎(作家)

    独特の雰囲気のある作品。文章もストーリーも密度が高く、「一つの世界を創り上げる」という作者の意欲を感じた。戦闘シーンなども、どういう動きでなにをしたかを描写しつつ、かつスピード感を失わない。非常に巧みだと思う。ストーリーの締め方はどこか突き放した感じでクールだが、それもこの世界観には合っているのではないだろうか。

  • 時雨沢恵一(作家)

    作り込まれた世界設定が私にはわかりにくく、説明不足にも感じ、一読目ではやや難儀しました。反面、キャラクターの多彩さ、殺陣の描写と迫力、ストーリーの展開と意外な人物の活躍、そして切なくも悲しいラストはかなり好きです。

  • 佐藤竜雄(アニメーション演出家)

    歌の力や血の力など魅力的な設定はあるが話の中に生かし切れていないのが惜しい。力を持ったがゆえの強さや悲しみがもっと登場人物の身近なものとして描かれていれば、ただの「必殺技」ではない宿命的な業として描けたのではないかと。しかし、こうしたジャンルの作品がむしろ少数派になったのが今回の小説大賞の特徴とも言えますね。

  • 荒木美也子(アスミック・エース株式会社 映画プロデューサー)

    まるで西欧の童話のようなストーリーで、主人公以外の赤燕のスウやイルナ等のサブキャラも魅力的に描かれています。後に明かされる主人公の師匠に纏わるエピソードも、よく練られた設定だと思います。ラストのカタルシスもあり、続篇も期待できる作品ではありますが、赤燕の国の女王が、なぜ娘である王女をそこまで厭うのか、女王として、次の世代の赤燕の国をどうしようとしていたのか、舞台設定には疑問が残りました。

  • 佐藤辰男(カドカワ株式会社 代表取締役会長)

    ファンタジー世界を丸ごと創造しようとする意欲は買う。いっぽうで、作られた言葉が恣意的に思えたり、設定としてどうかと思う(人の子供の作り方など)ところがあって、わたしとしては大きな賞には推せなかった。またいっぽうで描写力は抜群で、図書館のシーン、鳥や虫が飛び交う空のシーンなどは魅力的。これからの人。

  • 鈴木一智(アスキー・メディアワークス事業局 統括部長))

    基本的にはステロタイプのハイファンタジーなのですが、“言血”の設定がオリジナリティとして有用に機能しており、シーン描写に重点を置き丁寧に物語を積み上げていく制作姿勢にも好感が持てました。エンディングもヒロインの悲劇を単なる喪失感ではなくカタルシスとして演出できています。ファンタジー特有の冗長さは免れておらず、世界観にそぐわない言葉も散見される等、まだ改善の余地はあるものの、21歳という年齢を考えるとこれは伸びしろと捉えるべきでしょう。赤燕スゥのちょっとした仕草が個人的には可愛かったです。

  • 三木一馬(電撃文庫編集長、電撃文庫MAGAZINE編集長)

    手話で話す姫様アルナリス、言血を操る少年ユウファ、喋るツバメのスゥ、猫耳少女イルナ……不思議な個性と特徴を持つキャラクターたちがファンタジー世界で織りなす逃亡劇です。重厚だが、しっとりとした落ち着きのある文章は、まるで澄んだ水の透明さのような魅力を感じました。唯一の欠点は、この世界に読者をハマらせるハードルの高さです。落ち着きがある故に、地味な印象は拭えず、改稿でどこまで演出を上げられるかがポイントになると思いました。

  • 佐藤達郎(メディアワークス文庫編集長)

    言葉を禁じられ手話で語り合う王女と護舞官の淡くて切ない恋が印象に残る作品でした。ファンタジーならでの世界観やキャラ設定もよく造りこまれ、演出の仕方も上手く、類型的なファンタジー作品とは一線を画す独自の空気を醸し出していました。猫の種族に纏わるエピソードは、もう一冊分話が作れそうです。襲撃を受けた後の展開にもう少し緊迫感を持たせると、もっと物語が引き締まったと思います。

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