第23回 電撃大賞 入選作品
電撃小説大賞部門

大賞受賞作

『86―エイティシックス―』

著/安里アサト ※応募時「麻里アサト」より改名

電撃文庫

86ーエイティシックスー

著者   : 安里アサト
発売日  : 2017年2月10日

『その戦場に、死者はいない。』
だが、彼らは確かにあそこで散った。

『その戦場に、死者はいない。』
だが、彼らは確かにあそこで散った。

あらすじ

サンマグノリア共和国。そこは日々、隣国からの無人兵器《レギオン》による侵略を受けていた。しかし、共和国側も同型兵器の開発に成功し、辛うじて犠牲を出すことなく、その脅威を退けていたのだった。そう――表向きは。共和国全85区画の外。《存在しない“第86区”》。そこでは少年少女たちが日夜《有人の無人機として》戦い続けていた――。死地へ向かう少年兵と、遥か後方から彼らを指揮する“指揮管制官”となった少女の、出会いと別れの物語。

受賞者プロフィール

興味の方向があっちこっちに飛ぶ、東京製千葉配備の自律式空想製造システム。なので本棚の中身はジャンルごたまぜのまさにカオス。せめて分類してまとめろよと思うけどやらない。コーヒー党で紅茶党。小説もアニメも漫画も映画も好き。座右の銘は『やらないとできない』。ただし都合の悪い時には忘れます。本棚の整理とか。

受賞者コメント

頭が真っ白になる、という言葉を初めて実感した、受賞の御連絡でした。まさか大賞という栄誉に与るとは想像だにしておらず、望外の喜びです。選考に関わられた全ての方々に、篤く御礼申し上げます。なりたくて目指した作家の道です。いざ、目の前に開かれてみると身が竦みもしますが、折角賜ったチャンス。力の限り歩んでいこうと思います。そして願わくば、私の道に灯る沢山の物語と同様、誰かを照らす灯の一つとなれますように。

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

  • 高畑京一郎(作家)

    硬質な文体でやや読みづらさを感じたが、読み進めていくうちに慣れるレベルであり、話の内容的にもこの作品に合っているのではないかと思う。進むも地獄、退くも地獄という状況に置かれながら、自棄にもならず最善の方法を模索しようとする少年たちの心の強さに敬服させられた。

  • 時雨沢恵一(作家)

    電撃文庫から刊行されることを想定した大賞で、私も大賞に推しました。ストーリー構成、伏線、作中ギミックの使い方、ミリタリー描写、全体に漂うヒリヒリとした雰囲気、どれも素晴らしかったです。そして今回もっともインパクトがあったラストの一文を、私は高く評価します。

  • 佐藤竜雄(アニメーション演出家)

    虐げる側と虐げられる側の誕生に言い訳めいた設定がついてこないのでかえってリアルさを感じる。いい意味での箱庭的な世界観設定のために作品内容に没頭しやすい。それを意識してなのだろう、戦闘描写のスピーディさ、ディティールの細かさに情報量をつぎ込んでいるために独特のリズム感がある。意識は共有していても見知らぬ関係、という設定が最後に生きて読後感もさわやかだった。

  • 神 康幸(映像プロデューサー/株式会社オフィスクレッシェンド 取締役副社長)

    仮想世界ではありながら、戦争や人種差別や犯罪など、人類が綿々と立ち向かっていた永遠のテーマが物語に内包されており、非常に高度な文学世界が構築されている。主人公が、戦闘者を操る「ハンドラー」という職種のためか、小説を読んだという感触よりも、「ファイナル・ファンタジー」を熱中してやり切った……ような読後感。硬質な文章ゆえに読者を選びそうだが、作品としてソリッドに突き抜けている。

  • 佐藤辰男(カドカワ株式会社 代表取締役会長)

    アフリカや中東からの移民に対する欧州各国のナショナリズムの高まりを見ていると、この小説の極端な人種差別のありかたが真に迫ってくる。 ロボットアニメのような道具立ての中でここまで戦争の過ちを描ける筆力はすごい。

  • 鈴木一智(株式会社KADOKAWA アスキー・メディアワークス事業局 統括部長)

    “設定に長けた小説を読みたい”と個人的に思っていたところ、最終候補の1本として本作が登場。それはもうストライクでした。とりわけ共和国が抱える根源的な破局構造の構築は見事で、人種間の軋轢は現代の世相を投影しているかのようです。人間ドラマも重厚で、相手に対する思いと齟齬が交錯するレンとシンのラストバトルは感動的ですらあります。架空戦記特有の分かり辛さは免れていませんが、上手くブラッシュアップできれば一級品になる可能性を秘めた作品です。

  • 和田 敦(電撃文庫編集長、文庫プロデュース課編集長)

    《大賞》受賞作品だけに、まず最初に感じたのは文章力の高さでした。前半はやや説明もわかりづらく物語の世界に入りづらい部分もあったのですが、序盤を抜けますと一気にストーリーが展開し、凝縮された作品という印象に変わりました。テーマも重厚で、カタルシスのバランスもよく考えられていると思います。適度に謎は残されていますし、ぜひ続編も読みたいと思った作品でした。

  • 佐藤達郎(メディアワークス文庫編集長)

    常に命の危機に晒される過酷な戦闘、無慈悲に訪れる友人の死。逃れることができない絶望的な状況の中で、それでも束の間の休息があり少年たちが素顔を見せる日常がある。そのコントラストの描き方が上手くて、それ故に精神を削る研ぎ澄まされた緊張の淵で均衡を保つ彼らの心の危うさが胸に刺さる作品でした。ジレンマを抱えながらも距離を超えて彼らを支えたコマンダーの少女も魅力的で、特にラストシーンは見事にやられました。

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