第23回 電撃大賞 入選作品
電撃小説大賞部門

メディアワークス文庫賞受賞作

『キネマ探偵カレイドミステリー』

著/斜線堂有紀

メディアワークス文庫

キネマ探偵カレイドミステリー

著者   : 斜線堂有紀
発売日  : 2017年2月25日

「この事件は、映画も同じだ――」
華麗なる謎解きの名画座へ、ようこそ。

「この事件は、映画も同じだ――」
華麗なる謎解きの名画座へ、ようこそ。

あらすじ

「休学中の秀才・嗄井戸高久(かれいどたかひさ)を大学に連れ戻せ」。留年の危機に瀕するダメ学生・奈緒崎(なおさき)は、教授から救済措置として提示された難題に挑んでいた。しかし、カフェと劇場と居酒屋の聖地・下北沢の自宅にひきこもり、映画鑑賞に没頭する彼の前に為すすべもなく……。そんななか起こった映画館『パラダイス座』をめぐる火事騒動と、完璧なアリバイを持つ容疑者……。ところが、嗄井戸は家から一歩たりとも出ることなく、圧倒的な映画知識でそれを崩してみせる――。

受賞者プロフィール

小説を書くことが死ぬほど好きだったので、暇さえあれば小説を書いていました。好きな映画は「ドリームハウス」で、一番好きなモンスターは「溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム」です。よろしくお願いいたします。

受賞者コメント

この度は身に余る賞を頂いてしまい、本当に嬉しく、ありがたく思っております。小説家になりたかったのは、一心不乱に小説を書き続けてもいい理由を欲していたからでした。これからも小説を書ける、という感激に打ち震えながら、これからも精進して参ります。

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

  • 高畑京一郎(作家)

    映画をテーマにした推理ものの連作短編。細かく見ていけばいろいろと穴も多いが、探偵役の嗄井戸くんのナイーブさも可愛らしいし、事件を映画にこじつける無茶さ加減も一周まわって面白い。ただ、一冊四編にして、早くも作者が四苦八苦しているのが感じ取れるので、どういう形式やスタンスでいくか、今のうちに見直しておいた方がいいかもしれない。

  • 時雨沢恵一(作家)

    いわゆる安楽椅子探偵ものですが、男同士のバディものでもあり、タイトルを見て勝手に男女ペアの話だと思っていた私は意表を突かれました。この二人のキャラクター性と関係性がこの話の一番面白いところで、この先を読みたいと思わせる魅力もった作品でした。

  • 佐藤竜雄(アニメーション演出家)

    相方である映画マニアの青年の設定が秀逸。主人公の存在感がやや弱い分を大学教授やバイトの女子高生など魅力的なキャラクターが補っている。取りわけ女子高生のキャラはもっと早めに登場させてあげた方が話の転がりが容易だったと思う。今回は応募ということで映画作品に絡めたエピソードは控えめだったが、次回はどんな作品が登場するのか楽しみに思えるくらいに面白かった。

  • 神 康幸(映像プロデューサー/株式会社オフィスクレッシェンド 取締役副社長)

    映画に対しての知識・情熱があふれ出している作品で、ミステリーではありつつ映画に関する教養小説としても成立している。ただし題材として扱われている映画が、往年の名画であることが多く、若い世代からすると、その映画自体を知らないと、結末に納得感は得られないかもしれない。また、名探偵が家に引きこもっているという設定には既視感がある。頑張ってシリーズ化すると大化けの可能性も……。

  • 佐藤辰男(カドカワ株式会社 代表取締役会長)

    映画をネタにした連作短編。謎解きのアイデアはどれも秀逸で読ませる。ホームズとワトソンのような大学生コンビが事件の謎を解いていく。この二人の”過剰“な関係がいい。教授やお手伝いの女の子のキャラも魅力的なので、当然シリーズ化が期待される。まだ筆が荒いところがあるが勢いがある。

  • 鈴木一智(株式会社KADOKAWA アスキー・メディアワークス事業局 統括部長)

    本をキーアイテムとした大ヒットミステリ小説『ビブリア古書堂の事件手帖』。本作はその映画版なのだろうとタイトルを見て勝手に思っていたのですが、良い意味で大外れでした。強烈なクセを持つキャラの布陣や推理モノの範疇を超えたストーリー展開など力技でグイグイ推してくるタイプで、突っ込みどころは多々あるものの、執筆の勢いにおいては群を抜く作品でした。文章表現にまだまだ荒さがあるので、ここは研鑽を積んで頂きたい。

  • 和田 敦(電撃文庫編集長、文庫プロデュース課編集長)

    やや誤字は目立ちましたが、完成度の高い作品だと思いました。『ビブリア古書堂の事件手帖』を映画に置き換えたという印象も受けましたが、それでもそれぞれパターンを変えて仕上げていて、なにより面白く続きを読ませてくれました。なによりも嗄井戸のキャラが良く、読み手にも受けるのではないでしょうか。二人のやりとりとネタのパターンも含めて、まだ続きが読みたいと思わせてくれました。

  • 佐藤達郎(メディアワークス文庫編集長)

    映画をモチーフにしたことで、ミステリーの鍵となる映画のシーンが脳裏に浮かんできて、多層的に楽しめる作品に仕上がっていました。各エピソードの完成度にばらつきはありますが、映画の料理の仕方がパターン化されておらず、飽きさせない工夫も感じます。愛すべき映画マニアの嗄井戸と落ち零れ大学生の奈緒崎が、事件の謎解きを通じて次第に信頼し友情を育てていく過程も微笑ましく、各ミステリーの軸と共に楽しむことができました。

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