第23回 電撃大賞 入選作品
電撃小説大賞部門

選考委員奨励賞受賞作

『オリンポスの郵便ポスト』

著/藻野多摩夫

電撃文庫

オリンポスの郵便ポスト

著者   : 藻野多摩夫
発売日  : 2017年3月10日

「――私は、自分の死に場所を探しているのです」
黄昏の火星で、少女と老兵が往く8,635kmの旅路。

「――私は、自分の死に場所を探しているのです」
黄昏の火星で、少女と老兵が往く8,635kmの旅路。

あらすじ

火星へ人類が本格的な入植を始めてから二百年。度重なる災害と内戦によって都市が寸断され、再び赤土に覆われたこの星では、手紙だけが人々にとって唯一の通信手段となっていた。長距離郵便配達員として働く少女、エリスが依頼された仕事は、機械の身体を持つ改造人類《レイヴァー》の老兵、クロをオリンポス山にあるという郵便ポストまで届けること。火星でもっとも天国に近い場所と呼ばれるその地を目指し、少女と老兵の長い旅路が始まる――。

受賞者プロフィール

神奈川県出身。職場でのあだ名は豚足。この前の夏休みに炎天下の瀬戸内海をサイクリングして帰ってきたら、新たに焼き豚の名を同僚から拝命されました。日々、膨れ上がる腹囲と年二度の健康診断のBMI値に怯える日々。好きな食べ物は家系ラーメンと油そばとトンカツ定食と豚丼と唐揚げとお好み焼きとカレーライスとハンバーガー。あと、おやつにポテトチップスも欠かせません。

受賞者コメント

もう何度目の挑戦か自分でも覚えていません。本当はもう諦めてしまおうかとも思い、それでも、最後にもう一度だけと思い、執筆したのがこの作品でした。稚拙な部分も多いですが、今、自分にある全てを注ぎ込んだ作品だと自負しています。時間はかかりましたが、ようやくスタートラインに立つことができ光栄です。選んでくださった選考委員の方々や編集部の皆さまに感謝申し上げます。

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

  • 高畑京一郎(作家)

    テラフォーミングされた火星。荒涼とした地表。作品世界の設定もよく出来ているし、雰囲気もある。随所に出てくるSF用語やガジェットの使い方も巧み。しかし、一方でストーリーのダイナミズムという点では、やや淡泊に感じる。「先になにが待つか分からない、8000キロに及ぶ長旅」に、職員一人しか派遣しない局長もどうかと思う。

  • 時雨沢恵一(作家)

    旅物が好きなので、とても楽しみました。主役二人のキャラも立っていて、やがて分かってくる過去にもほろりとさせられます。これは完全に好みですが、徹底的に追いかけてくる敵もナイス。小さな難点があるとしたら、火星の状況の科学的な疑問、たとえばあの高度で息ができるのか、あの距離を移動中の燃料や食料はどうなるのか、というあたりでしょうか。

  • 佐藤竜雄(アニメーション演出家)

    テラフォーミング後の火星という舞台の大きさに話が負けている。どこかで見たことがある描写が多いのも気になる。主人公の「思ったことをすぐ口に出す」性格設定が上手く機能していないので彼女の過去の体験を知っても「だからあの性格に!」とならないのが惜しい。配達人と同行者のロードムービー感はいい雰囲気なので諸設定を整理して推敲すると、ぐっとスケール感が広がりそうです。

  • 神 康幸(映像プロデューサー/株式会社オフィスクレッシェンド 取締役副社長)

    すごい書き手。傑作だ。他の委員の方からは、科学的観点から矛盾の指摘が相次いだが、僕は全く気にならず、極上の「大人の童話」として読み切った。高度な文明が崩壊してしまった火星での、郵便配達をする17歳の少女と、「ジョン・クロ・メール」と言う名の旧式ロボットの旅が愛らしい。「希望だけは遺しておきたい」というメッセージが突き刺さり、物語が終わるのが切なくなるくらい、最終ページは心して読んだ。

  • 佐藤辰男(カドカワ株式会社 代表取締役会長)

    荒廃した火星世界の機械化された人間と半身を機械化された少女の交流を描く。流星群にやられ内戦もあって荒涼として世界、地球人類との交信もなく見捨てられた世界。世界観は魅力的なのだが、オリンポスの郵便ポストに込めたかった寓意が今一つピンとこない。

  • 鈴木一智(株式会社KADOKAWA アスキー・メディアワークス事業局 統括部長)

    衰退した人類という設定や草原にレイヴァーの亡骸が散在する風景等あの名作アニメを彷彿させる世界観。ジュブナイル・テイストを感じさせるキャラメイクと相まって個人的にはちょっと懐かしさを覚えた作品です。構成にはメリハリと躍動感があり、予定調和ではないが余韻を残すエンディングも作品に深みを与えています。SF的な課題は幾つかありますが、これはファンタジーとして読む物語なのかも知れません。

  • 和田 敦(電撃文庫編集長、文庫プロデュース課編集長)

    物語としてはしっかりと作られていて、泣ける仕上がりにはなっていたかと思います。ただ軌道エレベーターあたりとか、説明部分などで不明な所も何ヶ所かありました。世界観も大事な作品だと思いますので、そのあたりはしっかりと読み手を納得させられる仕上がりになっていると良かったです。また、冒頭の1話ももう少し何かしらの意味を付けても良かったかもとも思えました。

  • 佐藤達郎(メディアワークス文庫編集長)

    荒廃した火星を舞台にした郵便配達員のロードムービーとして、独特の雰囲気を醸し出していた作品でした。一緒に旅をする機械化人のクロが背負った過去や主人公と両親の物語が、8000kmに及ぶ長い旅を通じて次第に明らかになっていく、その見せ方も上手かったと思います。残念だったのは火星という雄大な舞台があまり活きておらず、科学考証に甘さが目立ったこと。その度に現実に戻されてしまったので、もったいなかったです。

TOP