第24回 電撃大賞 入選作品
電撃小説大賞部門

大賞受賞作

『タタの魔法使い』

著/うーぱー

電撃文庫

タタの魔法使い

著者   : うーぱー
発売日  : 2018年2月10日

「将来の夢」を胸に、現実の日本へ帰還せよ。
全校生徒で挑む、迫真の異世界ドキュメント。

「将来の夢」を胸に、現実の日本へ帰還せよ。
全校生徒で挑む、迫真の異世界ドキュメント。

あらすじ

2017年7月22日12時20分。1年A組の教室に異世界の魔法使いが現れた。後に童話になぞらえ「ハメルンの笛吹事件」と呼ばれるようになった公立高校消失事件の発端である。
「私は、この学校にいる全ての人の願いを叶えることにしました」
魔法使いの宣言により、中学校の卒業文集に書かれた全校生徒の「将来の夢」が全て実現。しかしそれは、犠牲者200名超を出すことになるサバイバルの幕開けだった――。

受賞者プロフィール

名古屋圏出身。学生時代にスーパーロボット大戦の二次創作ゲームに出会い、創作活動に興味を持つ。社会人になり長距離通勤の時間を有効活用するためにライトノベルを読むようになる。だが、フィギュアとプラモデルが本棚を占拠してしまったためライトノベルから離れる。ミリタリー系FPS・家庭菜園・プロレスを趣味にして数年が経ち、色々あって投稿を決意し、今に至る。

受賞者コメント

早速くじけそうです。大勢の前で喋ったことなんて有りません。贈呈式を想像するだけで緊張で変な汗が出てきます。しかし、頑張れ、勇気を出せ、夢を諦めるなと書いた作品で受賞した以上、私が逃げるわけには行きません。これからも、読者を応援するような作品を書いていきたいので、私も頑張ります。

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

  • 高畑京一郎(作家)

    今回一番の問題作。突っ込みどころは山ほどあるので、減点方式だったら大賞は取れなかったはず。イマジネーションの広がりと筆の勢い、「この状況に置かれたら、自分だったらどうするだろう?」と読者に思わせるワクワク感。それらの積み重ねがこの結果。力ずくでもぎ取った大賞と言えると思う。

  • 時雨沢恵一(作家)

    既に終わったファンタジックな出来事、しかも最近はやりの異世界飛ばされものをモキュメンタリーとして描くという、かつてない作りの作品でした。この点だけを取っても、高評価に値します。“夢”によるシミュレーション的な面白さも、“自分が巻き込まれたらどうするだろう?”という妄想が膨らみます。容赦のない残酷展開もあり、とにかく最後まで一気に読ませてくれた作品でした。

  • 佐藤竜雄(アニメーション演出家)

    「夢」の扱いが斬新。いまなお見る夢、かつて見た夢という違いが未来を分けるというところなど面白い取り上げ方。語り口にノンフィクション的な伝え聞きを交えるのは良いアイディアだがいささか中途半端。その分牧歌的な雰囲気とモンスターとの戦闘に見られる残虐描写とのアンバランスさが上手く機能していない。それゆえタタの魔法使いという存在が印象の薄いものになってしまっている。ただ未完成な分、これをどう推敲するのかという期待値はかなり大きい。

  • 神 康幸(映像プロデューサー、株式会社オフィスクレッシェンド取締役副社長)

    最初に10ページほど読んだ時は、5点満点の1点だった。矛盾だらけじゃないか。登場人物が多すぎて名前を憶えられるわけがないと。ところが、物語は爆発的なポテンシャルで、大傑作へと変貌する。ミヒャエル・エンデ級の、とてつもない文学的冒険である。3月の風と4月の雨が、5月に花を咲かせるというキーワードが物語の骨子になる。殺戮シーンが多いものの、大いなる希望が眼前に広がり、限りなくすがすがしい読後感である。

  • 佐藤辰男(カドカワ株式会社 取締役相談役)

    ある高校で、校舎と生徒、教職員ごと魔法使いによって異世界に飛ばされてしまう、という事件が起こる。この小説の面白みは、魔法使いがすべての生徒の願いを叶える、その結果として異世界にも飛ばされるが、それは異世界で生き残る術にもなる。願いを叶えた結果、むしろ不幸を呼び寄せるところと、また逆転もある。突き放すような文体が、不気味な効果を上げている。

  • 和田 敦(電撃文庫編集長)

    『漂流教室』や『バトルロワイヤル』のような要素を持ちつつも、“子供たちが持っている夢”をテーマに持ってきたことで、ありがちな流れをうまく料理できたかと思います。夢を捨てるのか否か……という面でも青春らしさを感じました。途中で少しダレるように感じる部分もあるので、もう少しアクシデントや青春パートの感動要素を盛り込んでも良かったかと思いました。

  • 佐藤達郎(メディアワークス文庫編集長)

    異世界漂流の物語をモキュメンタリーの手法を用いて描くことで、独特の緊迫感と臨場感を醸し出していました。卒業文集に書いた夢が叶うという突飛な発想も、物語の中でとても効果的に機能していたと思います。全学年ということで人数は多めの感がありましたが、その分、生徒達による多様なドラマが盛り込まれていて楽しめました。命の危機にさらされる極限の状況と、笑いを誘うほっとした出来事、その緩急の付け方も上手いと思いました。

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