第24回 電撃大賞 入選作品
電撃小説大賞部門

金賞受賞作

『Hello,Hello and Hello』

著/葉月 文

電撃文庫

Hello,Hello and Hello

著者   : 葉月 文
発売日  : 2018年3月10日

――これは僕が失った二百十四回の恋の物語。
そして、わたしが手にした一度きりの恋の話。

――これは僕が失った二百十四回の恋の物語。
そして、わたしが手にした一度きりの恋の話。

あらすじ

「――ねえ、由くん。わたしはあなたが好きです」
 見ず知らずの女の子に声をかけられた。なぜだか僕のことを知っている不思議な少女・椎名由希との出会いはいつだってそんな風に始まった。
 笑ったり、泣いたり、怒ったりを繰り返し、僕らはまた、消えていく思い出を、どこにも存在しない約束を重ねていく。
 たった一度きりの、さよならの瞬間まで。
 これは残酷なまでに切なく、心を捉えて離さない、出会い(ハル)と別れ(ユキ)の物語。

受賞者プロフィール

大分の端っこで漫画や小説漬けの日々を送っている、友人曰く『良い人止まりで恋人になれないタイプの男』。作家デビューを前にして全く実感はないけれど、友人たちすら呆れる壁いっぱいの本棚に収まった数千冊の本のことを、仕事の資料だから、と言えるようになるのが何より嬉しい。十年以上かけて集めた大好きな本たちに囲まれている時が一番の幸せ。そして、その棚の中に、『一番特別な本』が収まる日が来るのを楽しみにしている。

受賞者コメント

高校二年の冬に、本屋にある電撃文庫の棚から一つの物語と出会いました。読み終えた後、頭の中がその物語でいっぱいになり、何度も何度も繰り返し読んだあの日々こそが僕の原点です。あれから十年。電撃大賞で金賞をもらったことに縁を感じています。まだ何者でもなかった僕が過ごした日々以上のものを誰かに届けられるよう、物語を綴っていきたいと思います。また選考に関わられた全ての方に感謝します。ありがとうございました。

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

  • 高畑京一郎(作家)

    設定は面白いが、その設定を成り立たせるために、いろいろと無理をしている。神様を出してしまうと結局は何でもありになってしまうので、できればその手前でうまい落としどころを見つけて欲しかった。切なさの残るラストは、個人的には好み。

  • 時雨沢恵一(作家)

    切なく不思議な作品として、とても好みの作風でした。時系列をいじった構造も上手です。最初は意味が分からなかったタイトルの謎が解けるシーンは、とても気持ちよかったです。最後、一読するとアンハッピーエンドに見えますが、私は、ビターに近いハッピーエンドだと思いました。このオチだったからこそ気に入った作品です。

  • 佐藤竜雄(アニメーション演出家)

    主人公視点とヒロイン視点の並びが錯綜しているため、中盤まではヒロインが単に傷跡を残して満足して去っていくだけの存在に見えてしまい残念。中盤過ぎから彼女の心情を丁寧に描いてからはぐんぐん引き込まれただけに勿体無い。彼女を存在させるシステムの説明よりも、消えてしまうことの意味をもっと強調した方が良かったと思う。主人公に振られたクラスメートへの救いなど読後感の爽やかさは素晴らしい。

  • 神 康幸(映像プロデューサー、株式会社オフィスクレッシェンド取締役副社長)

    いきなり「第92話」という、意表を突いた物語構成。タイトルもキャッチーで素晴らしい。著者は、パズルを組み立てるように物語を紡いでいく。一歩踏み外せば物語は破綻する。そのリスクを承知で挑んだ。その勇気に拍手を送りたい。56ページの「第零話」から俄然、物語の引力が増し結末が気になっていく。ただ、1週間で人の記憶から消えてしまうヒロインの「お金がなくても暮らせる」日常は、描写する必要があっただろうか。

  • 佐藤辰男(カドカワ株式会社 取締役相談役)

    大賞に値する作品だと思った。事故で本来死ぬべき少女が生きてしまった。代わりに1週間生きたら、この世から痕跡を消されてしまうという特異な宿命を負うことになった。その理屈を上手に説明していてSFとして合格点。しかし、この恋物語、もう痛くて痛くて、読んでられない。やがて少年と過ごす1週間がかけがえないことが読者に伝わると、そこから別れへの道が敷かれる。最後は文楽の道行だ。うまいなあ、と思った。

  • 和田 敦(電撃文庫編集長)

    まずは、とても綺麗なお話だな、という印象を受けました。やや設定に強引な印象や気になる面もありましたが、恋愛に対しての素直な気持ちの方が強く写るので、もしかしたらそれほどは気にならないのかもしれません。これは個人的な好みという面ではありますが、少年の中にも何かしらが残って、どこか引っかかりを覚えたりして欲しかったかなと。ここは著者の狙うカタルシスの方向とはズレそうなので本当に好みレベルですが。

  • 佐藤達郎(メディアワークス文庫編集長)

    世界から一週間毎にはじかれてしまう由希の悲しみと絶望、それでも諦めずに抱き続ける春由への想いと希望が、とても切なく描けている作品でした。「世界」が命と引き替えに由希に課したこと。その本当の意味に気づいたとき、彼女が抱える想いの深さに胸が締め付けられました。存在がリセットされる一週間を1セットにし、時間軸をばらばらにした構成も面白いと思います。とても優しい物語でした。

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