第25回 電撃大賞 入選作品
電撃小説大賞部門

メディアワークス文庫賞受賞作

『ふしぎ荘で夕食を ~幽霊、ときどき、カレーライス~』 ※応募時「ドミトリーで夕食を」より改題

著/村谷由香里

メディアワークス文庫

ふしぎ荘で夕食を ~幽霊、ときどき、カレーライス~

著者   : 村谷由香里
発売日  : 2019年4月25日

成仏に必要なもの。
愉快で心優しい住人たちと、美味しい夕食。
ホロリと泣ける幽霊ごはん物語。

成仏に必要なもの。
愉快で心優しい住人たちと、美味しい夕食。
ホロリと泣ける幽霊ごはん物語。

あらすじ

家賃四万五千円、一部屋四畳半でトイレ有り(しかも夕食付き)。
大学近くの木地山の麓にひっそり建つ「ドミトリー深山」は、
大学二年生の俺・七瀬浩太が暮らすシェアハウスだ。
古い民家を改築したというそこは、オンボロな外観のせいか
「心霊スポット」として噂されている。
まさかそんなわけ……と思った矢先、どうやら成仏できない
幽霊が本当に棲みついているみたいで――。
味音痴だけど料理上手な美人の先輩に、大学八年生でドMな残念男、
瞑想が日課の悟り系後輩女子。
これは、そんな変わった人たちと平凡な俺が、
幽霊と一緒に美味しくて温かい夕食を迎える物語だ。

受賞者プロフィール

山口県出身。福岡市在住。ライター。山口大学人文学部人文社会学科卒。専攻は西洋哲学で、卒業論文のテーマは時間論でした。好きなものはインターネットと音楽ゲーム、哲学と猫とプラネタリウムとおいしいもの。あと多分小説。本を作るのも好きです。実は料理はあんまりしません。得意料理はハンバーグです。

受賞者コメント

メディアワークス文庫賞という栄誉ある賞をいただき、ご連絡をいただいてしばらくは喜びのあまり地に足のつかない日々を過ごしました。選考に関わられたすべての方に篤く御礼申し上げます。11歳のころから小説を書き始め、公募に出すようになってからは7年の月日が流れていました。これまで文章を書くことと共にあった人生で、それがこれからも、新たなステージで続くことが幸せです。今後のことを考えると楽しみよりも不安が勝りますが、精一杯努力したいと思います。わたしの小説を手にとってくださる人が、少しでも笑顔になれるような、そんな作家を目指して精進したいと思います。

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

  • 三雲岳斗(作家)

    オカルト要素を含んだ青春群像劇は根強い人気のあるジャンルですが、作品全体に流れる優しく温かな雰囲気が本作の特徴だと思います。彼らの日常生活をずっと見ていたいと感じさせる居心地の良さがありました。構成のつたなさや設定の唐突さを感じさせる部分もありますが、キャラクターの魅力がそれを十分に補っています。料理の描写に力を入れるという着眼点も良かった。いずれ続編が描かれて登場人物が増えていけば、より魅力的な物語になると思います。素直に続きが読みたいと思える作品です。

  • 三上 延(作家)

    とにかく文章力が抜きん出ていました。主人公とヒロインをはじめ、どのキャラクターも造型に嫌味がなく魅力的。温かなエピソード、会話のテンポ、適度なギャグも心地よく、一読して授賞は確実と思わせる作品でした。ただそれぞれのエピソードに統一感がないこと、プロローグとエピローグが弱いことはやや気になりました。全体としてどういう物語なのか、というテーマの部分が明確であればもっとよかった気がします。

  • 吉野弘幸(アニメーション脚本家)

    読み味は良く、ふんわりするりと入ってくる作品で、さくさく楽しく読み進めることができました。が、反面、さくさく中盤まで読んでも何が物語の主軸なのかが判断できず、少し戸惑ってしまいました。最後まで読むと、少し意外ながらも理解はできるのですが、だったら最初からもう少しジャンル提示してほしいなぁ、と。作品の雰囲気は良く、この雰囲気が好きな読者も必ずいると思うので、そこにしっかりリーチできるよう、描きたいものと描くべきことを整理すると、よりよくなるのではないかと思いました。

  • 神 康幸(映像プロデューサー、株式会社オフィスクレッシェンド取締役副社長)

    何も起こらなそうな平凡なドミトリー生活。淡々と続く食事のシーン。しかし、この料理が食欲をそそる。そんな仮初めの幸福感に忍び寄る影の存在が、うっすらと怖い。吉田修一さん的な怖さ。中盤「幽霊がいる」と告げる人物の登場から一転して、物語は転がり面白くなっていくのだが、せっかく民俗学を勉強している主人公なのだから、伏線として神社や民話などの話を展開しておくべきではなかったか。

  • 湯浅隆明(電撃文庫編集長、電撃文庫MAGAZINE編集長)

    懐かしさを感じさせる「下宿」という場の空気感がとてもいい作品でした。ドミトリーのメンバーも八年生の児玉先輩をはじめ皆ひとクセあり、楽しげな雰囲気が伝わってきます。物語は中盤を過ぎてから幽霊のお話がようやく動き出す展開が少しちぐはぐで、もう少し前から伏線を仕込んでいくか、あるいはいっそのこと下宿の日常ものとして最後までいくか、どちらかに割り切ったほうが一本筋が通った作品になったと思います。

  • 高林 初(メディアワークス文庫編集長)

    優しい雰囲気で全編を包んでいる、とても読み味がよい作品です。こんな人たちに囲まれて暮らしてみたい、と読者に思わせる力があると思いました。ただ、雰囲気だけになりすぎてしまって、物語のなにを読ませたいのかが見えづらい作品でもあります。食べ物を意図的に描いていることは理解できるのですが、メシネタで読ませるには、もっと見た目、触感、香り、味は描かれたほうがよいように思います。本来ならば、事件×ごはんで解決という図式がはまる作品のはず。構成的にももう少し、ごはんを作って食べる意味がほしかったところです。

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