第25回 電撃大賞 入選作品
電撃小説大賞部門

メディアワークス文庫賞受賞作

『破滅の刑死者 内閣情報調査室「特務捜査」部門CIRO-S』※応募時「破滅の刑死者」より改題

著/ふくいけん

メディアワークス文庫

破滅の刑死者 内閣情報調査室「特務捜査」部門CIRO-S

著者   : ふくいけん
発売日  : 2019年5月25日

正気と狂気の狭間で微笑う少年とともに、
破滅へのカウントダウンが始まる――!

正気と狂気の狭間で微笑う少年とともに、
破滅へのカウントダウンが始まる――!

あらすじ

内閣情報調査室――通称CIROの特務部門。
表向きはテロ抑止、だがその実態は国家を脅かす
「異能者」対策に作られた特務機関だった。
そこに配属された雙ヶ岡珠子の初任務は、ある事件現場で目撃された
少年から話を聞くというもの。少年の名は、戻橋トウヤ。
七人が死亡し半焼した現場で殺人者に顔を見られたトウヤは、
謎の機密ファイルを追う犯罪結社フォウォレから命を狙われていた。
珠子は少年に身を隠すよう勧めるが――、
「協力してファイルを探し、結社の刺客も倒すってどう?」
そこには正気と狂気の狭間に怪しく踊る、少年の顔があった――。

受賞者プロフィール

小説家とは職業ではなく生き方だと考えている大学院生。専攻は社会学。右投げ右打ち。剣道での構えは中段。社会学系ライトノベルと称し、面白く、かつ学べる作品を目指し、日々試行錯誤中。アニメや漫画の考察が好きで、能力バトルやミステリ、青春モノなどの幅広いジャンルに挑戦している。一番好きなコンテンツはガンダムのようなロボットモノ。好きな機体はBDとゼファーガンダム。

受賞者コメント

本作の完成と今回の受賞は、ひとえに小説の面白さを教えてくれた数多くの先行作品のお陰に他ならないと思います。最終選考委員の皆様を始め、関係者各位にもきちんとお礼を申し上げたいと思います。また、両親を始めとした周りの方々には感謝しかありません。加えて、何者でもない僕の作品を読んで、「上手く言えないけど面白いと思う」という正直役に立たない感想をくれた親愛なる友人達にもありがとう。僕の作品を読んでくださった誰かが、「面白い、自分も書いてみたい」と感じ、いつか素敵な小説を書いてくださることがあれば、作者にとって最高の喜びです。

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

  • 三雲岳斗(作家)

    突き抜けた勢いと個性があって、個人的には大賞でもいいかなと思うくらい推していた作品です。広義の能力バトルものに含まれる作品ですが、心理的な駆け引きが主体で、単純な暴力に頼らない工夫を随所に感じることができました。全体の構成も完成度が高く、主人公や他の登場人物たちの性格も現代的で洗練されている印象。決して万人受けする作風ではありませんが、多くの熱心なファンを期待できる作品だと思います。

  • 三上 延(作家)

    異能力者同士の戦いとはいえ知能戦が中心で、駆け引きを描く力量には確かなものを感じます。欲を言えば敵側が主人公の策を読んで対処する、罠に嵌めるといったプロセスがあればと思いましたが、狂気を孕んだ主人公のキャラクター性で一気に読まされました。陽性のパートナーとのコンビも好印象でした。

  • 吉野弘幸(アニメーション脚本家)

    キャラは全体によく立っており、特に主人公の異質なキャラはよく描けていたと思います。ラストのドンデン返しも面白く、それまでの諸々の疑問が腑に落ちるのは良かったのですが、反面、特殊能力を主人公に付与したせいでゲーム全体の緊張感が削がれてしまったり、その能力も作品世界内での認知度が不明だったりと、甘さが目立つ部分も多いのが少し残念でした。また、逆転勝利のカタルシスは、敵の狡猾さ、悪辣さと正比例するので、強く憎たらしく個性的な敵の描き方に注力すると、より面白くなるのではと思います。

  • 神 康幸(映像プロデューサー、株式会社オフィスクレッシェンド取締役副社長)

    書き手としての才能が光る。物語の世界への吸引力が凄い。「暴力と嘘は嫌い」という主人公の浮世離れしたキャラクター造形が魅力的。意表を突く場面展開も膝を打つうまさ。僕たちの会社が制作した『SPEC』のように映像化もありえるか? と、前半まで読んでいて感じたのだが、呆気なくラスボスにたどり着いてしまい、物足りなさが残った。ということは、2倍以上のボリュームにされても成立するのではないかと。

  • 湯浅隆明(電撃文庫編集長、電撃文庫MAGAZINE編集長)

    主人公の超然としたキャラクターが魅力的でした。恐れ知らずで、クレバーで、読んでいてしびれるものがあります。また、彼の巧みな策略や駆け引きがおもしろく、それだけでぐいぐいと読ませる力のある作品でした。キャラクター自体の魅力は十分ながら、脇の登場人物もふくめた人間ドラマとしてはやや薄く、物語全体としてもこぢんまりとしている印象があり、そのあたりを作り込めていれば、より一層完成度の高い作品になったと思います。

  • 高林 初(メディアワークス文庫編集長)

    単純な能力値のインフレーションで片づけず、制約が設けられている一筋縄ではいかない異能力の設定が面白かったです。そのため、駆け引きが読ませどころとなりますが、裏をかくための「あっと言わせる要素」は、もうひと捻りほしかったです。主人公の恐怖欠乏症(恐怖欲求症)という設定も面白かったのですが、こちらも生かしきれていない印象です。ひりひりする空気や、その雰囲気だからこそ満たされている興奮などがもっと描かれていると違ってくると思います。設定はよいけれど、もう少し踏み込んで欲しいと感じた作品でした。

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