第25回 電撃大賞 入選作品
電撃小説大賞部門

電撃文庫MAGAZINE賞受賞作

『折り鶴姫の計算資源』

著/木田寒朗

あらすじ

遥か未来。少年・悟代サダの妹ノゾは死の淵にあった。
異常な耐性獲得能力を持つウイルスに蝕まれる身体を、
解析によって毎日創薬される新薬で絶えず治療し続ける、
その繰り返しの中で。
サダは彼女を救うためのシステム〈千羽鶴〉を開発する。
それは創薬のために必要な計算を、
電脳上の立体組み立てパズル――折り鶴へと変換し、
他人に解いて――折ってもらうシステムだった。
この国を統治し信仰すら集める人工知能〈綾取りの姫〉の仕組みを
模したそれは、人々の儚い「善意」と「興味」の上に成り立つもので――
情緒に根差す残酷なシステムが兄妹にもたらす、運命は。

受賞者プロフィール

好きな食べ物はミカン。好きな小説のジャンルはSF。ペンネームは応募直前にでっち上げたもので、どういう経緯で思い付いたのか自分にもよく分からない。寒さには弱い。

受賞者コメント

拙い作品ですが、こうして選んでいただけたことを心から嬉しく思います。審査員ほか関係者の皆さま、本当にありがとうございました。もともと長編として書いていたところ納得いくものにならず、思い切って短編にまとめたものが本作でした。執筆も応募も断念しそうになりましたが、「諦めずに書き上げて良かった……!」という思いで胸がいっぱいです。短編であるため本作単体で世に出すことは難しいですが、どうにか形にできるよう頑張ります。

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

  • 三雲岳斗(作家)

    創薬シミュレーションの計算資源という現代的なテーマを、詩的なSFとして巧みにまとめていると思います。文章力や構成も高水準。ただし、短編作家としての「個性」が希薄に感じられた点だけが唯一残念でした。キャラクターの魅力やユーモア、あるいは毒気といった要素があれば、より印象的な作品になるはずです。とはいえ、確かな力量のある作者だと思いますので、早く次の作品を読んでみたいです。

  • 三上 延(作家)

    長編と同じ基準で評価していいものか難しい作品でした。根幹のアイディアに今ひとつ腑に落ちない部分もありましたが、読者を突き放すような乾いた世界観には惹かれるものがあります。結末まで無駄なくまとめられた短編で、この作者の次回作を読んでみたいと思わせる内容でした。

  • 吉野弘幸(アニメーション脚本家)

    短編ではありますが、個人的には全ての長編を差し置いて、もっとも面白く読めた作品です。適正な設定に適正な描写で、短編らしく削ぎ落とされた無駄のなさが作品全体の透明感を上げる一方、オリジナルな未知のテクノロジーを根幹に据えつつも、そこで語られるドラマはネット時代の無責任なコミュニケーションあり、独善やネットの悪意など、人の醜い部分を描きつつも、物語の印象はあくまで美しい。本当に楽しませてもらいました。あえて苦言を呈せば、こぢんまりと綺麗にまとまりすぎなので、できればもっと新人らしい破天荒なアイディアが利いた短編や、長編作品が読んでみたいなと思いました。

  • 神 康幸(映像プロデューサー、株式会社オフィスクレッシェンド取締役副社長)

    人間がアプリを使うことで、それが「計算資源」となり社会の基盤を支えていくという構想、これは現実のものになるかもしれない。著者の未来を見据える視線に共感した。だが、短編に求められる「文字と展開の凝縮度」が物足りず、読後も疑問符が頭に浮かんだまま。難病を救うための「創薬システム」、その薬の素材がどこからやってくるのかを記述していくと、より未来予想図になるのではないかと思った次第。

  • 湯浅隆明(電撃文庫編集長、電撃文庫MAGAZINE編集長)

    ユニークなアイデアをコンパクトにまとめた完成度の高いSF作品で、短編としては5年ぶりの受賞となりました。あやとりや折り鶴が計算資源になるという設定が斬新で、ビジュアルを想像すると美しく秀逸でした。難病を患った妹が、彼女を救うはずのシステムに翻弄されるストーリーも緊張感があってよかったです。オチにもうひと捻り欲しいようにも思いましたが、現状の形でも十分に満足できる内容だと思いました。

  • 高林 初(メディアワークス文庫編集長)

    優しい気持ちにさせてくれる、素敵なお話です。SF要素ありきの想像力豊かな物語だと思いました。ただし気になるところもいくつかあります。短編なので、読ませることよりも、アイデア勝負なのは理解しておりますが、やや描写がざっくりすぎるように感じました。現実を舞台にしていないのなら、余計にイメージを膨らませてくれる細部は必要になります。また、寓話的なテーマではありますが、細かい設定のひとつひとつはリアリティに欠けています。そのため、感動的なドラマにまで昇華しきれていないように思いました。

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