第25回 電撃大賞 入選作品
電撃小説大賞部門

選考委員奨励賞受賞作

『鈍感主人公になれない俺の青春』

著/成瀬 唯

あらすじ

初めての恋をしてから思春期を終えるまでの間、 他人の心の声が聞こえるようになる世界。 高校生の日坂真は、初恋での大失敗以降 「もう恋はしないと」心に誓ったはずだったが、 ある日同じ学年の染谷優花が気になってしまう。 生まれて一度も恋をした経験がなく、他人の心がわからない彼女に、 日坂は本心を隠し友人として距離を縮めていくのだが――。

受賞者プロフィール

学生時代にライトノベルに出会い、自由で面白い作品に衝撃を受ける。自分もそんな小説が書けたら、と思いながら数年が経ったが、漫画家を目指す友人に勇気をもらい、小説を投稿し始める。

受賞者コメント

この度はすばらしい賞をいただきまして、まことにありがとうございます。応募作は自分が書きたいと思ったものをそのままぶつけたので、受賞の電話を頂いた時は大変驚き、信じられない気持ちでいっぱいです。選考に携わってくださった皆様に心よりお礼を申し上げます。まだまだ未熟ではありますが、誰かの救いになれるような小説を書いていきたいです。どうぞよろしくお願いいたします。

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

  • 三雲岳斗(作家)

    今回の応募作の中では一番物議を醸し出した作品でした。設定的にはツッコミどころ満載なのですが、それを強引に押し通すだけの勢いと最後まで物語を書ききるパワーがあって、その点が評価に繋がりました。主人公のポジティヴさに救われてはいるものの、彼とヒロインが作中で延々と罵倒され続けるのが、ちょっと精神的につらかった。また、結局ヒロインが自分の恋心を自覚するだけの話になってしまっているので、もう一工夫あるとよかったかな、と思います。とはいえ、様々な面で斬新な作品で、楽しく読ませていただきました。

  • 三上 延(作家)

    人間社会が崩壊しかねない強引な設定をどう捉えるか、という点で評価の大きく分かれる作品だと思います。個人的にはコミュニケーションの洪水に足掻く主人公たちの痛々しさと瑞々しさを直球で描いた点を高く評価しました。言葉にした建前と内心の本音とのギャップを利用したギャグも新鮮でした。シリーズ化は難しいでしょうが、個人的に強く推した作品の一つです。

  • 吉野弘幸(アニメーション脚本家)

    ベースとなる設定に『これだとどう考えても社会が成立し得ない』と思った途端、集中も共感もできず、個人的に厳しかった作品です。ただ、それでも最後に世界観をひっくり返すようなどんでん返しとか「ああ、この展開(orセリフ)をやりたかったからこんな無茶をしたのか」みたいな納得ポイントがあれば話は変わったのですが……。とは言えこの『成立しない』と思われたフラッシュアイディアで、一本の小説を書ききり、読ませた力量には、素直に感服しました。

  • 神 康幸(映像プロデューサー、株式会社オフィスクレッシェンド取締役副社長)

    読み始めて「なんだ、これは!」と愕然。「恋をすると、人が考えていることがわかる」という設定も「無茶苦茶すぎて読めやしない」と呆然。だけどページをめくるごとに、論理破綻など気にせず、ぶっちぎりで書き切る著者のエネルギーに感嘆した。よくもまぁ、息切れせずに最後までたどり着いたものだと。舞台化すると、爆発的に笑えるコンテンツになる可能性も。賛否両論渦巻いたダントツの「問題作」だ。

  • 湯浅隆明(電撃文庫編集長、電撃文庫MAGAZINE編集長)

    考えていることが全方位にだだ漏れになる、というのはありそうでなかった大胆な設定です。四方八方からの激しいツッコミが、この世界での生き辛さを、まざまざと感じさせます。そんな世界で、空気も読まずヒロインに向かっていく主人公には清々しさがありました。行動原理や心情変化などを含めキャラクターがもう少し煮詰まっていて欲しかったなど、いくつか気になる点もありましたが、読者にはこの斬新な設定を楽しんでもらいたい一作です。

  • 高林 初(メディアワークス文庫編集長)

    心の声が駄々漏れという設定はありそうにみえて、ここまで描いた作品はなかなかないのではないでしょうか。選考会では「無理がある設定」というご指摘もありましたが、アイデアの勝利だと思います。率直な本音がむき出しになるだけではなく、隠したい好意も時には──といったふうに、上手く演出として使い分けているのもよかったです。ですが、ストーリー自体はかなり単純でまっすぐなので、もっと起伏を作り、この設定ならではの解決法を見出せたら、なおグッドかもしれません。とはいえ、とても楽しませていただきました。

TOP