第26回 電撃大賞 入選作品
電撃小説大賞部門

金賞受賞作

『豚のレバーは加熱しろ』

著/境居卓真

電撃文庫

豚のレバーは加熱しろ

著者   : 境居卓真
発売日  : 2020年3月10日

転生したら、ただの豚になっていた――。
能力もない一匹の豚はやがて、歪んだ魔法の世界を変える。

転生したら、ただの豚になっていた――。
能力もない一匹の豚はやがて、歪んだ魔法の世界を変える。

あらすじ

「次やったら、私が豚さんをいじめちゃいますよ」
 豚のレバーを生で食べて意識を失い、目が覚めると異世界で泥まみれになっていた俺。声が出せない。体が重い。
 何の因果か、ただの豚に生まれ変わってしまったらしい。
 そんな俺を助けてくれたのは、人の心を読むことができる少女、ジェス。
 その能力のせいで俺のお下劣な思考は筒抜けだが、
 優しいジェスは熱心に面倒を見てくれる。
 ジェスたそのような金髪美少女にお世話してもらえるのだったら、
 豚でいるのも悪くない! これは、純真な少女と汚い俺の、
 ブヒブヒな日々を綴った記録――のはずだったんだが……
 なあ、ジェス。どうしてお前は、命を狙われているんだ……?

受賞者プロフィール

小学生のころハリーポッターシリーズに影響されて小説を書き始め、なぜか理系に進み、理学部生物学科を卒業後、夜な夜な外食産業の発展に貢献している社会人一年生。暮らしている土地でドーナッツ屋やファミレスの店員さんに顔を憶えられてしまうことに定評がある。ロイヤルミルクティに砂糖をたくさん入れた飲み物と、野菜ジュースに少しだけ某乳酸菌飲料ソーダを混ぜた飲み物が好き。主にミステリーを勉強中、だったはず……

受賞者コメント

お忙しいなか拙作を読んでくださった方々に心より御礼申し上げます。白状しますと、実は異世界ものを読んだことがありません。普段はミステリー的な何かを書いているのですが、レバニラを作りながらふと「自分が異世界ものを書くなら?」と妄想した結果、これが生まれました。無知ゆえの冒険心と筆の走るに任せた勢いがウケたのでは、と勝手に推測しています。未熟な私ですが、冒険心と勢いには自信があるので、勉強しつつ突っ走っていく所存です。よろしくお願いします。

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

  • 三雲岳斗(作家)

    いわゆる異世界転生の類型ですが、手堅いバランス感覚をそなえた完成度の高い作品です。なによりもヒロインが群を抜いて魅力的でした。そのヒロインの存在が物語の推進力になっている点など、まるでお手本のような構成で、作者のたしかな力量を感じます。主人公が最後までチート能力を持たないただの豚であるのも評価が高かった点で、贅沢をいえば、豚ならではの体質を活かした展開がもっと盛りこまれていたら完璧でした。

  • 三上 延(作家)

    「異世界転生したら本物の豚だった」というアイディアで押し切った腕力を高く評価しました。主人公がこれといったチート能力を持たず、家畜という基本設定から大きく外れないのも好印象です。豚転生というアイディアに目を奪われがちですが、ヒロインとともに旅をする展開、徐々に明らかになる世界設定の描写にも手堅いものがあります。魅力的なヒロインをはじめ増えていく仲間たちとのやりとりも楽しく、最後まで安心して読める作品でした。

  • 吉野弘幸(アニメーション脚本家)

    コンパクトにまとまっていて文章も読みやすく、また、ちょっと歪な世界観が最終的にパズルのピースが嵌まるように、サクサクと詳らかにされてゆくのも心地よかったです。反面、アタマで考え組み上げた感じが鼻につき、全体に淡泊に感じられてしまったのは、とても惜しいところでした。とはいえ新人としては必要充分に上手いですし、次は溢れる情動に読者を巻き込むような、そんな熱量のある作品が読んでみたいと思いました。

  • 神 康幸(映像プロデューサー、株式会社オフィスクレッシェンド取締役副社長)

    「変身」を書いた天国のカフカに読んでもらいたいくらいだ。豚の生レバーを食べてしまって目覚めたら、異世界で豚になってしまったという開幕。普通は現代から何か武器になるものを持っていきそうなものだが、正に徒手空拳。いや豚足空拳? 豚の視覚・聴覚・臭覚、そして探究心のみで乗り切っていく展開が、魅力的。100ページ目、僕は豚とともに泣いた。それほど、物語にのめり込めたのだと思う。エピローグは、審査員より違和感の声が多かった。

  • 湯浅隆明(電撃文庫編集長)

    まずタイトルのインパクトにやられました。刊行時にこのままでいくのか変えるのかとても気になります。異世界転生の変種である内容は、設定も面白く語り口も軽やかで楽しく読むことができました。チートできないただの豚となった主人公が己の知恵と勇気でヒロインの窮地を救っていくさまには大変しびれました。終わり方には賛否ありましたが個人的には読後感もよかったです。

  • 高林 初(メディアワークス文庫編集長)

    異世界転生ものはジャンルとして定着して久しいですが、本当に豚になったままで終わってしまう作品は珍しいかもしれません。豚という設定を上手く生かしたヒロインとの掛け合いも楽しく、内面描写も豊かです。主人公が豚でありながら感情移入がしっかりとできます。半面、壮大なストーリーを最初から想定していたのか、やや進みが遅い展開。一冊で楽しませるには、もう少し要素を詰め込んだほうが良かったように感じます。

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