第26回 電撃大賞 入選作品
電撃小説大賞部門

メディアワークス文庫賞受賞作

『心は君を描くから』

著/一条 岬

電撃文庫

今夜、世界からこの恋が消えても

著者   : 一条 岬
発売日  : 2020年2月22日

明日の君が、今日の僕を憶えていないとしても――。
一日ごとに記憶をなくす彼女との
日々を描く大感動作!

明日の君が、今日の僕を憶えていないとしても――。
一日ごとに記憶をなくす彼女との
日々を描く大感動作!

あらすじ

僕は僕自身を驚かせることなく、世界の片隅でその生涯を終えるものだと思っていた。
彼女と、日野真織と出会うまではーー。

クラスメイトに流されるまま仕掛けた嘘の告白。
だけど彼女は、3つの約束を守ることを条件に僕と恋人になるという。
1、放課後まではお互い話しかけないこと。
2、相手が困っていたら助けること。
3、お互い、本気で好きにならないこと。
そして始まった偽物の恋。
やがてそれが嘘と呼べなくなったころ、彼女は僕に告げる……。
「病気なんだ。前向性健忘症って言ってね。
夜眠ると忘れちゃうの。一日にあったこと、全部」
これは記憶を失い続ける君と、君の一日を彩ろうとする僕の、青く切ない希望の物語。

受賞者プロフィール

愛知県出身。趣味は料理と読書。楽しみは一点もの集め。自分は創作とは無縁の人生を送るだろうと思っていました。それが社会人になって数年後のある日、気付くと小説を書いていました。心がカラカラに乾いていた時期のことでした。抱え込んでいた言葉や感情はひょっとすると、見つけられたがっているのかもしれないと感じた時でした。今後は作家としてそれらを言葉や物語に昇華していけたらと思っています。

受賞者コメント

まずは選考に関わった皆様に厚く御礼申し上げます。良い小説を書きたいなと思っています。十代の頃、私は小説の力を信じていませんでした。ただの「字」の集まりだと思っていました。それが二十代になって人生に打ちひしがれた時、故人の小説を読んで考えが変わりました。ただの「字」の羅列がいつしか心に入り込み、情を揺らして結びつき、もっと人に優しくと私を鍛えました。小説は単なる「字」の集まりではない。今はそう思えるように、自分も書いています。

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

  • 三雲岳斗(作家)

    難病モノは比較的容易に読者を感動させられるぶん、新人賞ではどうしても評価が辛くなりがちなのですが、本作にはそのような先入観をくつがえす魅力がありました。展開に意外性があり、決して目新しいとはいえない設定を上手く効果的に活用していると思います。登場人物が少しものわかりがよすぎるのでは、と感じる部分もありましたが、そのぶん読後感が爽やかで好感度は高いです。

  • 三上 延(作家)

    前向性健忘という使い古されたアイディアに最初は悲観しましたが、いい意味で期待を裏切られました。ハイレベルな青春小説です。キャラクターに嫌味がなく、日常の描写も丁寧で、主人公たちの関係に素直に感情移入できます。安易な悪役が登場しない世界だからこそ、他人への配慮や恋愛感情から真相を伏せるというシチュエーションが抜群に効果を発揮しています。ただ、終盤の展開についてはもう少し丁寧に伏線を張って欲しかったところ。

  • 吉野弘幸(アニメーション脚本家)

    「一日で記憶がリセットとされる前向性健忘症モノかぁ。手垢が付きまくってるのによく飛び込んだな、よっぽどじゃないと評価できないぞ」と、眉にツバつけて読み始めたわけですが、その予想は良い意味で大きく裏切られ『よっぽど』でした。展開に意表を突かれ、なるほど、前向性健忘症モノでもまだこういう手があったかと素直に感心させられ、また、読後にはしっかり感動させられ、本当に楽しめました。個人的にいちばん推していた作品です。

  • 神 康幸(映像プロデューサー、株式会社オフィスクレッシェンド取締役副社長)

    イジメからの解放の条件は、一番人気のある女の子に告白すること。恥をかかせてやろうというワル連中の目論見は見事に外れる。女の子は、なぜだか告白を受け入れる。3つの条件はあったにせよ……。このオープニングが素晴らしく、主人公目線の物語と、女の子目線の「日記」が交互に登場し、物語の結末は全く予想ができない。後半になると、「日記」には主人公が登場しなくなる。そこに、この作品の独創性が存在する。ただ、その伏線を書いておくべきではなかったか。

  • 湯浅隆明(電撃文庫編集長)

    落ち着きのある筆致が心地よく、少し後ろ向きな主人公も雰囲気にマッチしていました。記憶喪失という題材に目新しさはないものの、使い方やその後の展開が巧みです。大きなサプライズや感動が読者を待ち構えており、物語としての完成度が高かったです。キャラクターもみんな自分なりの価値観を持った気持ちのよい性格で、全編を通して飽きずに読むことができる作品でした。

  • 高林 初(メディアワークス文庫編集長)

    流行りの青春小説のエッセンスをきれいにちりばめた作品。記憶障害で一日たつと昨日のことを忘れてしまう少女と少年のボーイミーツガールという設定は非常に手堅いです。それゆえに生まれるすれ違いや切なさなど、この手の作品を読みたい読者にはたまらないのではないかと思います。象徴的な三つの約束をすべて上手く消化できていないのがもったいなく、ほかにも細かいところは気になるものの、素敵な作品でした。

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