第26回 電撃大賞 入選作品
電撃小説大賞部門

銀賞受賞作

『天国のラジオ』

著/六導烈火

電撃文庫

こわれたせかいの むこうがわ ~少女たちのディストピア生存術~

著者   : 陸道烈夏
発売日  : 2020年3月10日

飛び出そう、この世界を。
たくさんの知恵を。わずかな勇気を。
そして大切なともだちの想いを。
その手に握って。

飛び出そう、この世界を。
たくさんの知恵を。わずかな勇気を。
そして大切なともだちの想いを。
その手に握って。

あらすじ

――全てを狂わせたあの戦争から、どれほどの時が過ぎただろう。
 ただ一つ残ったヒトの文明都市・チオウ。
果てなき砂漠に囲まれたその街では「王」による独裁が行われ、
人々は貧しく身を寄せ合い、
砂に紛れ潜む異形の怪物たちに怯えながら毎日を過ごしている。
 そんな街の外れ、天涯孤独に生きる少女・フウもその一人だった。
 ある日、古びたジャンク屋で壊れかけのラジオを手に入れたフウ。
ノイズ混じりに唯一聞こえる、「戦前」の教育番組のリピート放送から、
彼女は少しずつ《生きる知識》を学び、蓄えていく。
さらに、不思議な少女・カザクラとの出会いを経て、
フウの運命は大きな転機を迎えることに。
それは、壮大な《脱出劇》の始まりだった……!

受賞者プロフィール

趣味はラジオで野球を聞くことです。ラジオは打たれた相手投手の顔を見なくていいため、純粋に勝ちを喜べるので好きです。人混みが苦手で年一回甲子園球場に足を運んでは年に数回しかない完封負けを目撃するという苦行を繰り返しています。応援歌を大声で歌って、美味しいご飯を食べて憧れの野球選手を見れると思えば悪くないのかもしれません。そう考えれば、スコアボードに並んだ9つのゼロにもそこはかとない趣を感じます。

受賞者コメント

この度は銀賞という身に余る賞を受賞するに至り嬉しく思います。選考に関わられた多くの方々に厚く御礼申し上げます。今まで三振と凡打を繰り返していましたが、今年は初めて内野の頭を越えてくれました。ドアスイングはスラッガーの敵と言われて久しき近代野球。今回は下半身主導の身体が開かない力強いスイングが出来た、と自分で勝手に思っています。前途多難は承知の上ですが、来年は僕が敬愛する江越選手と共に飛躍の年になれば……と夢想している所存です。

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

  • 三雲岳斗(作家)

    荒廃した世界で生きる少女が、ラジオで学んだ知識で人生を切り開いていくというアイデアは非常に魅力的。ただ、作中世界の文明レベルに対して主人公のアドバンテージが相対的に乏しく、そのせいで展開にご都合主義が目立つ印象を受けました。それでも後半の逃走劇は非常にスリリングで面白く、物語のラストも満足度の高いものでした。

  • 三上 延(作家)

    小説としての完成度は別にして、今回の選考で最も印象に残った作品でした。絶望的なシチュエーションで主人公が活路を見出し、成長していくのは王道といっていい展開ですが、主人公の武器がラジオの教育番組から得た知識というアイディアには虚を突かれました。冒頭から結末まで、一つのラジオに秘められた謎がきちんと物語の骨格になっています。主人公と同居する人造人間や、後半で関わりを深める軍人など、アクの強いキャラクターたちも好印象でした。

  • 吉野弘幸(アニメーション脚本家)

    推敲不足なのか、時々描写が矛盾していたり、話者が分かりにくくなったりする部分が散見され、また世界観やキャラ造形などに関しても、舌っ足らずな部分も多く、完成度は決して高いとは言えないのですが……自分が元教員だったせいもあり『知識(教育)で貧困(困難)を克服して行く』物語には弱く、このお話も自分のそんなツボにサクっと嵌まって大変楽しく読ませてもらいました。個人的にはとても好みの作風。今後に期待します。

  • 神 康幸(映像プロデューサー、株式会社オフィスクレッシェンド取締役副社長)

    文明崩壊後の世界。天涯孤独の主人公の少女フウは、旅の最中、ラジオを手に入れる。100年前の放送を電波として拾っているらしい。学問を教えてもらっていなかったフウは、次第に知識を増していく。偶然知り合ったセーラー服姿のロボットと運命を共にすることになり、やがて「この世界」の謎にたどり着いていく。大筋はとてもいいのだが、記述が断片に次ぐ断片で、大いなるうねりとならず、このままでは読者は納得感のある浜辺にたどり着けないのでは。

  • 湯浅隆明(電撃文庫編集長)

    世界設定がしっかりと練られていて、この世界なりの空気感もよく出ていました。無力な貧しい少女がラジオを聞いて生き抜く知恵や稼ぐ力を身につけていく過程が、少しずつレベルが上がっていくようで読んでいて気持ちよさがありました。その後の展開では起こる事象の派手さに反して読んでいて少し地味な印象が残りました。もう少しキャラクター同士の関係性を深めたり揺さぶったりするドラマが欲しかったように思います。

  • 高林 初(メディアワークス文庫編集長)

    デストピア的な世界観が丁寧に描かれ、そこで暮らす最下層の少女への憐憫が感情移入に上手く繋がっています。その前提があるからこそ、ラジオの教育番組で知識を身に着けていく展開に非常にカタルシスがありました。ラジオというガジェットが上手く繋がった作品で、物語の最後までそれが生きてくるのも高評価。ただヒロインふたりの設定といい、そもそもの世界観といい、読者のニーズに応えられるかが難しい作品です。

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