第26回 電撃大賞 入選作品
電撃小説大賞部門

選考委員奨励賞受賞作

『そして、遺骸が嘶く』

著/酒場御行

電撃文庫

そして、遺骸が嘶く ―死者たちの手紙―

著者   : 酒場御行
発売日  : 2020年2月22日

人は命が散る瞬間、
『愛した人』を思い遺す――。
死神と呼ばれた遺品返還兵が綴る、
記憶と魂の慟哭。

人は命が散る瞬間、
『愛した人』を思い遺す――。
死神と呼ばれた遺品返還兵が綴る、
記憶と魂の慟哭。

あらすじ

『今日は何人撃ち殺した、キャスケット』
 六四二年、クゼの丘。一万五千人以上の自国兵を犠牲にして、
ペリドット国は森鉄戦争に勝利した。
そして終戦から二年、狙撃兵・キャスケットは陸軍遺品返還部の一人として、
戦死した兵士の遺品や遺言をその家族等に届ける任務を担っていた。
兄の代わりに家を支える少女、恋人を待ち続ける娼婦、
戦争から生き還った兵士。
遺された人々と出会う度に、キャスケットは静かに思い返す――
死んでいった友を、仲間を、家族を。
そして、亡くなった兵士たちの“最期の慟哭”を届ける任務の果て、
キャスケットは自身の過去に隠された真実を知る。

受賞者プロフィール

東京都陸ノ孤島市で育ちました。本や漫画が好きですが近所に本屋さんがなく、ゲーセンもマックも遠かったので、昔から欲しいものが直ぐ手に届く位置にある暮らしに憧れていました。好きなことは映画鑑賞と散歩と読書、喫茶店で煙草を吸いながらゆっくりお話を書くことです。

受賞者コメント

この度は奨励賞に選んでいただき、ありがとうございます。選考委員会や編集部の皆様、応援してくれた両親や友人にお礼申し上げます。プロフィールに書いた通り欲しがりな性格なのですが、まさか『自分が書いた物語をたくさんの人に見てもらいたい』という夢のような望みにまで手が届くとは思いませんでした。まだスタートラインに立ったばかりなので、次は『自分が書いた物語をたくさんの人に面白いと思ってもらえる』という望みを叶えたいです。

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

  • 三雲岳斗(作家)

    ライトノベルの枠を超えた骨太な印象を受ける作風で、丁寧な描写に好感が持てます。平板なストーリーや個性の乏しい主人公など課題は多いものの、それが逆に作者の伸びしろの大きさだと感じています。本作に関しては、架空の国家や戦争を舞台にする必然性があまりなかったので、史実ベースの作品でもよかったのではないでしょうか。

  • 三上 延(作家)

    キャラクターの内面を言葉で抉るような熱量の高さは並外れており、それぞれのエピソードは非常に読ませるものになっています。ただ一つの物語として全体を眺めた時、戦死者の遺品を届けること、帰還兵の心身の傷を描くこと、戦場での兵士たちを描くことがごたまぜになっていて、相互にきちんと噛み合っていない印象です。書き手として強い武器があるだけに、もう少し物語のテーマを絞りこんで、流れが整理できていればと思わずにはいられませんでした。

  • 吉野弘幸(アニメーション脚本家)

    連作短編に挑み、独自の世界と雰囲気を生み出していることは素直に評価しますが、一方で快楽が極端に少なく、どうしても読後感が陰鬱になるのが気になりました。暗いとか痛いと言われる小説でも、やはりクスリと笑って緊張が緩和できるところや、好きになれるキャラが欲しいもの。痛みには快楽を、緊張には緩和を、交互に上手く使えるようになると、せっかくの独自の持ち味がもっと活かされるようになるのではと思います。

  • 神 康幸(映像プロデューサー、株式会社オフィスクレッシェンド取締役副社長)

    戦乱に明け暮れる世界で「遺品返還部」に所属している主人公は「死神」として忌み嫌われている。主人公が、なぜこの仕事をしているのかの謎が、物語の強力なエンジン。第2部から一気にハードボイルドになり、驚くほど面白く読ませる描写力が光る。逆に言うと、第1部の熱量が僕にはもの足らず、逆にした方が良かったのではないか。また、主人公の上司の現状や、主人公の本名を巡る記述に関しても、審査員からは疑問の声が多かった。

  • 湯浅隆明(電撃文庫編集長)

    戦後の物悲しい空気感がよく出ている文体で、遺族に遺品を届けるという各エピソードから、それぞれの登場人物の抱える背景もあいまって切なさが伝わってきました。後半に描かれる主人公と兄官の話も絆を感じさせてよかったです。ただ、事実関係がよくわからない点があったり、焦点が絞り切れていない部分があるなど粗削りな部分も散見され、もう少し要素やエピソードを整理できればより洗練された物語になったと思います。

  • 高林 初(メディアワークス文庫編集長)

    挑戦的な意欲作。構成的にも書きなれていないところが垣間見えますし、荒削りな部分もあります。ですが、重厚なテーマを書ききったことをまず評価したい作品です。読者ウケを置いておくと、この作品は遺品を持っていって故人を偲ぶというベタな話ではなく、人の心の深奥をえぐるようなところにこそ本質があるのだと思っております。簡潔にして、はっとさせる切れ味があり、それをいかにエンタメに昇華できるかが大切だと思います。

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