第26回 電撃大賞 入選作品
電撃小説大賞部門

選考委員奨励賞受賞作

『グラフィティ探偵――ブリストルのゴースト』

著/池田明季哉

電撃文庫

オーバーライト ――ブリストルのゴースト

著者   : 池田明季哉
発売日  : 2020年4月10日

――グラフィティ、それは儚い絵の魔法。
ブリストルの妖精(ゴースト)が、
俺と彼女の想いを
鮮やかに塗り替えていく。

――グラフィティ、それは儚い絵の魔法。
ブリストルの妖精(ゴースト)が、
俺と彼女の想いを
鮮やかに塗り替えていく。

あらすじ

イギリスの港町、ブリストルに留学することになったヨシは、
ある日バイト先であるゲームショップの店頭に
落書きがされていることに気付く。その落書き――
同僚の少女ブーテシア曰く「グラフィティ」というアートらしい――
の犯人を捜す中、かつてブーテシア自身が〈ブリストルのゴースト〉と
呼ばれるグラフィティの天才であったことを知る。なぜ書かなくなったのか?
 そんな問いをかける間もなく、街ではグラフィティを巡る事件が発生、
事態を重く見た市議会はグラフィティの一掃を掲げ、
対立が先鋭化することに。かつてグラフィティを競い合いった
少女ララやその仲間たちとの出会いの中で、
ヨシたちはこの騒動の「ある答え」にたどり着くが――

受賞者プロフィール

デザイナー/ライター。デザインは書籍装丁、ロゴ、ブランドデザインなど。文章は評論、インタビュー、書評など。代表作に宇野常寛『母性のディストピア』表紙デザイン。メールマガジンDaily PLANETSにて『kakkoiiの誕生ーー世紀末ボーイズトイ列伝』(玩具文化評論)連載中。現在は日本に在住。好きなものはおもちゃとアート。特にトランスフォーマーとミクロマンとダイアクロン。

受賞者コメント

2018年の9月から2019年の同月まで、イギリスのブリストルという街に住んでいました。街中にアートがあふれるこの川沿いの港町での経験をもとに、想像を膨らませて書いたのが、応募した作品です。賞をいただけたのは、グラフィティというイマジネーションあふれるカルチャー、そしてブリストルという街のおかげです。自分の書いた物語を評価していただけた以上に、その素晴らしさの一端でも伝えられたことを嬉しく誇らしく思います。ありがとうございました。

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

  • 三雲岳斗(作家)

    非常に興味深い題材を選んだ唯一無二の魅力を持つ作品。ただし全体的に描写が不足気味で、せっかくの題材を活かしきれていないことを勿体なく思います。舞台となっているブリストルの街の空気やグラフィティの魅力そのものを、もっと感じさせて欲しかった。キャラクターやストーリー構成にも改善の余地が多くありますが、そのあたりの技術的な調整は難しくないと思いますので、ぜひともより良い作品に仕上げていただければ。

  • 三上 延(作家)

    ストリートアートという題材の新鮮さがまず目を惹きました。舞台となるブリストルの風俗の描写も楽しく、オリジナリティという点では評価に値します。だからこそ、題材の扱いに不満が残りました。読者に馴染みのない分野を扱うのであれば、その魅力を積極的に語るキャラクターを冒頭から登場させるべきです。ヒロインのエピソードに重きを置いてしまったためか、物語の根幹であるグラフィティと読者の距離がなかなか縮まりません。キャラクターは魅力的に描かれていますし、小説としての完成度が高い分、非常に惜しい作品でした。

  • 吉野弘幸(アニメーション脚本家)

    この作品で最も興味深く、また特筆すべきは、グラフィティという日本人には馴染みの薄いジャンルに対して訓啓を与えてくれるところでしょう。ただ、残念なのは、そのグラフィティの素晴らしさが作品を通じては伝わり難かったことでした。主人公格のキャラが情熱を持ってグラフィティを描き「こんなにグラフィティは凄いんだ! カッコイイんだ!」という、その熱量が伝わるシーンが欲しかった。とても惜しい作品だと思いました。

  • 神 康幸(映像プロデューサー、株式会社オフィスクレッシェンド取締役副社長)

    世界的に有名なバンクシー。彼(?)がブリストル出身で、この街がグラフィティ発祥の地だと初めて知った。高度な文明小説の誕生だ。このテーマで小説に仕上げたこと自体が凄い。口汚いヒロイン「ブー」のセリフがいちいち面白い。「あたしが悟りを開いたら、てめーら涅槃に叩き込んでやるからな」は笑った。この作家さんに未来あれ。ただ、ヒロインの右腕の謎は、周辺の人の方が先に知り得たのではないかとも思い、謎としては弱いかも……。

  • 湯浅隆明(電撃文庫編集長)

    すっきりと読みやすい文体で、ブリストルの街やグラフィティについての説明もくどすぎず、興味深く読める形で描かれていました。ストーリーも派手さはないものの起承転結があり全編を通じて楽しく読むことができました。なによりヒロインが出色で、近づくと逃げるが離れると追いかけてくる野良猫のような魅力にあふれていました。朴訥な男子がツンデレ美少女にもてるという夢が詰まった作品です。

  • 高林 初(メディアワークス文庫編集長)

    グラフィティの世界で生きる人々、そしてそのアートの魅力といったテーマはオリジナリティがあります。一方、探偵と謳っているがミステリ要素はなく、また市議会との対立を大きく煽っておきながら肩透かしな展開など、惜しいところも散見されます。個人的には、ブリストルを舞台にネイティブのヒロインを据えたのなら、もう少しリアリティのある造形がほしかったところ。セリフ回しが日本人にしか思えませんでした。

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