第27回 電撃大賞 入選作品
電撃小説大賞部門

金賞受賞作

『受付嬢ですが、定時で帰りたいので ボスをソロ討伐しようと思います』

著/mato

電撃文庫

ギルドの受付嬢ですが、残業は嫌なので ボスをソロ討伐しようと思います

著者   : 香坂マト
発売日  : 2021年3月10日

超堅実で安定志向の受付嬢が、
残業を全力回避するため
世界を揺るがす最強の冒険者に――!?

超堅実で安定志向の受付嬢が、
残業を全力回避するため
世界を揺るがす最強の冒険者に――!?

あらすじ

冒険者と呼ばれる者たちが、剣と魔法で魔物たちと戦う世界。
冒険者たちを戦闘へと見送り記録する「受付嬢」のアリナは、
収入が不安定かつ危険と隣合わせな冒険者稼業を嫌い
“安定の稼ぎと毎日の定時帰り”を理想とする毎日を送っていた。
しかし、実情は日々膨大な業務量に忙殺されて
残業まみれの辛いもので……。
そう、残業の原因は、いつまでたっても
ダンジョンを攻略できない無能すぎる冒険者たち。
怒りに震えるアリナは、【副業禁止】という掟を破り、
秘密にしていた最強の怪力と巨大な大鎚を武器に
ダンジョンへ赴くのだが――
偶然居合わせた一流冒険者にその姿を見られてしまい……。

受賞者プロフィール

あれは忘れもしない小学4年生の夏休み。図書館にあった神坂一先生のスレイヤーズシリーズをふと手に取り読み始めてから、ライトノベルが大好きに。自分でも書きたい!と中学生の頃には授業中にこっそり小説を書いていた。社会人になってからはブラックな戦場で戦う社畜戦士だったが、ふと我に返り、現在はホワイトな職場を求めて求職中。某ひと狩りいくゲームと甘い物と梅酒が大好物。

受賞者コメント

このたびは身に余る賞を賜り、厳しき商業の世界に挑戦する機会をいただけたこと、大変光栄に思います。選考に携わられた全ての方々には感謝の念に堪えません。小心者ゆえに、選考が進む度に胃がキリキリしていまして、受賞の連絡をいただいた時は喜びより先に「キリキリから解放される!」と全身から力が抜けました(翌日めちゃくちゃ喜びました)。連日の残業、溜まる鬱憤――それらが大爆発してこのお話が生まれたので、あの残業の日々も無駄ではなかったのだなと感慨深いです。授業中にこっそり小説を書いていたあの頃のワクワクを忘れずに、創作を楽しみながら勉強させていただく所存です。よろしくお願いいたします!

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

  • 三雲岳斗(作家)

    今回の候補作の中では群を抜いてリーダビリティの高い作品で、最後まで気持ちよく読み進めることができました。主人公の動機や心情も現代的で共感しやすいものでした。一方で、いわゆるテンプレ的なフォーマットの枠内に収まった作品であり、新規性や独自性が希薄という印象は否めません。好感度の高いキャラクターを描けるのは強みだと思いますので、それを生かしつつ、作品独自の魅力を突き詰めていって欲しいと思います。

  • 三上 延(作家)

    かなり評価の別れた作品でした。タイトル通りの内容を結末まで一貫させたコンセプトの強さは好印象です。定時に帰る以外ほぼ関心を示さない主人公と、他のキャラクターの関わりがやや平板で、日常パートに起伏が欠ける点は引っかかりましたが、その分クライマックスのアクションシーンとのメリハリが効いています。異世界ファンタジーとして安心して読める内容でした。

  • 吉野弘幸(アニメーション脚本家)

    大きく評価が割れた作品です。サクサクと読め、楽しめた作品ではありましたが、一方で独自の世界観や設定は存在せず、いわゆるなろう文法に則って、読者が持つ「なろうだからこんな感じ」という共通認識に大きく頼る構成であった部分は、個人的に大きなマイナスでした。しかし他の選考委員の方々から強い推薦があり、最終的に金賞受賞となりました。地力はあると思うので、次作に期待します。

  • 小原信治(放送作家・脚本家)

    読み手が限定されがちなダンジョンものだが「働き方」という等身大のテーマが背骨になっていたことで年齢問わず楽しめる私小説のような熱量を感じた。バトルシーンの描写はデジタルゲームをしない私でも手に汗握った。「高いスキルを生かした社会的な成功より自分の暮らしを楽しみたい」と受付嬢という前時代的な仕事に固執する主人公の価値観も不確実性の高いコロナ禍では説得力があった。読後感も良い。なんて理屈抜きに、最後まで没頭できた。ただただ純粋に楽しめた。

  • 湯浅隆明(電撃文庫統括編集長)

    なろう系の出落ち作品かと思いきや、予想外の熱い展開に思わず滾る傑作でした。描写はあっさりでストレスなく読め、キャラクターも下手に凝らずにテンプレながら魅力は十分。主人公の過去エピソードや、パーティーメンバーの危機を伝えるアイテムの伏線なども、簡潔でありながら高い効果をあげています。最後の熱い戦いの演出力や、下手につばぜり合いさせない俺つええの割り切りも大変気持ちよく、今後が期待される才能だと思いました。

  • 高林 初(メディアワークス文庫編集長)

    素直に楽しいと思える作品です。題材としてはUGC作品でよく見かけるものですが、それを外しなくツボをしっかりと押さえてお書きになっています。無双展開を映えさせるための、二重生活ぶりも面白おかしく描けていらっしゃいました。よくある作品で終わるか、ここからさらなるブレイクを果たすか。すべてデビュー作であるこちらの作品の「これから」にかかっています。シリーズ化できる内容ですので、今後を楽しみにしております。

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