第27回 電撃大賞 入選作品
電撃小説大賞部門

メディアワークス文庫賞受賞作

『それから俺はかっこいいバイクを買った』

著/遠野海人

メディアワークス文庫

君と、眠らないまま夢をみる

著者   : 遠野海人
発売日  : 2021年4月24日

親友が遺した、
36時間の合奏曲を演奏せよ――。
実現不可能な難題に奔走する
高校生の青春ストーリー。

親友が遺した、
36時間の合奏曲を演奏せよ――。
実現不可能な難題に奔走する
高校生の青春ストーリー。

あらすじ

相馬智成には、中井恭介という親友がいた。
幼い頃から習っていたトランペットで恭介の作った曲を演奏する――
いつしかそんな日々が当たり前になり、恭介の妹を観客に、
三人だけの演奏会が続いた。
中学生のある日、恭介が事故で死ぬまでは。
高校生になった智成の世界は少し変わっている、
死んだはずの人間が見えるのだ。
楽器をやめ、早朝バイトをする智成は、昼間は活動しない
“彼ら”との共存を感じる、この静かな時間が好きだった。
だが、恭介の妹・優子との再会で静かな日々が終わる。
「文化祭で兄の遺作を演奏をする手伝いをしてほしい」
手渡されたそれは、演奏時間が36時間もある壮大な合奏曲で――。

受賞者プロフィール

京都出身。新幹線で乗り物酔いするタイプ。最近ようやくスマートフォンにしました。まだ慣れません。免許も資格もないので、身分証明のために去年初めてパスポートを取りました。顔写真付きの身分証明書ってあると便利ですね。普段は大体、猫と昼寝をして暮らしています。

受賞者コメント

最終選考に残った、と連絡をいただいたのは連休が終わった後のことでした。未登録の番号からの着信だったため、無愛想な態度で電話に出たことを覚えています。賞に応募している間は一縷の望みにかけて、いつどんな番号からかかってきても電話に出ていました。数多くの不審な電話を経験しました。不在着信にこちらからかけなおしたこともあります。でもこれからはもう見知らぬ番号からの着信には出なくて済む、というのが受賞をしたときに考えたことの一つです。それ以外の喜びや実感については今後ゆっくりと噛み締めていこうと思います。よろしくお願いします。

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

  • 三雲岳斗(作家)

    止者の設定や演奏時間の長大な曲という道具立て、吹奏楽というテーマなど、個々の要素は非常に魅力的で、物語の着地点も綺麗に決まっていると思います。ただし全体的に描写が甘く、要素の魅力が十分に表現されていないことに、もどかしさを感じました。せっかく音楽を題材にしているのですから、演奏者の心情や行動、曲そのものが読み手に伝わるように丁寧に描いて欲しかったところ。それだけでも読者の心に残る印象的な作品になるはずです。

  • 三上 延(作家)

    今回、個人的に強く推した作品でした。日常に溶け込んだ「止者」という設定、36時間続く合奏曲といった道具立ては地味ですし、肝心の音楽の描写が乏しい点は引っかかるものの、語りや構成の上手さで緩むところがありません。合奏曲のタイトルの謎を解くことが、主人公の再生にも繋がっていく構成やストイックすぎるラストも含めて、作者のオリジナリティがいい意味で発揮されていると感じました。今後の作品が楽しみです。

  • 吉野弘幸(アニメーション脚本家)

    不思議な手触りの作品でした。個人的には楽しく読んだのですが、いくつか惜しい点があり、たとえば〝止者〟という、実在したら世界を混乱に陥れるだろう設定に対する説得力が弱く、また音楽ものにしては、その音楽が全く聞こえてこないことが気になりました。もちろん文字で音楽を伝えるのは大変なことなのですが、この題材ならばそこを頑張って、奇妙な音楽ならその奇妙さを「奇妙だ」という言葉以外の方法で読者に伝わるようにして欲しかったと思います。

  • 小原信治(放送作家・脚本家)

    演奏に36時間かかる「真空で聞こえる音」。生者と止者(死者)の高校生が昼と夜に別れて同じ校舎を使うという設定の目新しさと「喪の仕事」という普遍的なテーマ。お膳立てからすれば36時間の演奏シーンで確実に泣けるはずなのに泣けない。36時間に渡る演奏が聴こえて来ない。それでも設定のオリジナリティと音楽小説という難題に挑んだチャレンジ精神は評価したいと思った。

  • 湯浅隆明(電撃文庫統括編集長)

    36時間ぶっ続けの演奏会というアイデアがまず面白い。止者の設定ともマッチしており、また無理難題に挑み、努力とアイデアで問題を解決していく様にはカタルシスがありました。ストーリーが進んでいく中で、止者や吹奏楽部に関わるさまざまな人たちの想いが演奏会に向けて積み重なっていくところも共感性が高く、ラストへの期待を高めます。しかし期待が膨らんだがゆえに、思ったよりも抑制的に描かれた演奏会のシーンは少し残念でした。そこはお涙頂戴の批判も恐れず盛大にはじけきって欲しかったところ。とはいえキャラクターもみな魅力的で、受賞にふさわしい傑作であることは間違いありません。

  • 高林 初(メディアワークス文庫編集長)

    しっかりとしたテーマ性でとても読後感のよい作品でした。ただ自分探し要素や学園部活もの要素や生と死に向き合う要素など、少々欲張りすぎたようにも感じました。最終的には自分の本心とも向き合う話です。一人称という文体は心情豊かに描ける反面、内心がすべてさらされます。諸刃の剣なので、もう少し注意が必要かもしれません。またしっかりとしたテーマ性に比して、登場人物をカリカチュアしすぎているようにも感じました。

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