第27回 電撃大賞 入選作品
電撃小説大賞部門

メディアワークス文庫賞受賞作

『はじめての夏、人魚に捧げるキャンバス』

著/国仲シンジ

メディアワークス文庫

僕といた夏を、君が忘れないように。

著者   : 国仲シンジ
発売日  : 2021年3月25日

どこまでも蒼い海に囲まれた
不思議が眠る島で、
未来を描けない少年と、
その先を夢見る少女とのボーイミーツガール。

どこまでも蒼い海に囲まれた
不思議が眠る島で、
未来を描けない少年と、
その先を夢見る少女とのボーイミーツガール。

あらすじ

難関美大を目指す高校生の海斗は、沖縄の離島を訪れていた。
昔から絵を描くのが好きだった、
だけどどこか感情の抜け落ちた絵しか描けない……
そんな自分の殻を破るヒントを探す創作旅行だ。
島に到着した夜、どこからか聴こえてくる歌声に導かれ、
海斗は海岸へと足を向ける。
海に浮かぶ岩に腰かけ、月を見上げて歌う幻想的な姿――
そこには“人魚”がいた。
「私、伊是名風乃! 君は?」人魚ではなく風乃と名乗った島の少女は、
海斗が絵を描きに来ていると知り、島の案内を買って出てくれた。
二人で過ごしていくうちに、元気で明るい風乃に惹かれていく海斗。
そして海斗は、この島に眠る人魚の伝説と
風乃を待ち受ける悲しい運命に直面する――。

受賞者プロフィール

石垣島出身。興味を持つとすぐ手を出す田舎者。高校の生物部でウミヘビの研究をし、地元でラジオパーソナリティを経験させて頂き、二次創作イラストなどを嗜み、ダンスバトルにも出ました。初心者から徐々に成長していくのが好きですが、その分黒歴史も山ほどあります。いつまでも懲りずに夢を見て生きていきたいです。

受賞者コメント

二年ほど小説家になろうで書き、初めての公募が今回の電撃大賞です。一生投稿し続けて、一度でも一次通過できれば最高だなあと思っていました。ところがいきなり一次通過し、「うおおおー!選評もらえるううう!!」と発狂していたらまさか受賞まで至ってしまい、もはや嬉しさより恐怖の方が大きいです。自分の小説の感想をもらった経験がほとんどないため、この作品が出版されてどういう反応があるのか全く予想がつきません。怖いのでAmazonのレビュー欄などは極力見ません。いつか実力が結果に追いつくように、精進していきたいです。

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

  • 三雲岳斗(作家)

    南国の離島の空気感が鮮やかに再現された、雰囲気のある作品だと思います。個人的にとても好きな作風です。主人公や彼を取り巻く周囲の人々も、それぞれ独自の存在感があって魅力的でした。唯一、事件の解決に至るまでの過程がやや乱暴で、説得力と整合性に欠ける点は選考でも評価が分かれた部分でした。等身大の高校生としての主人公と、解決するべき問題の大きさが上手く調整できれば、更に高い評価が得られるのではないかと。

  • 三上 延(作家)

    青春小説として楽しんで読みました。主人公やヒロインだけではなく、他のキャラクターにも好感が持てますし、王道の展開を衒いなく書き切っています。ヒロインがぐいぐい距離を詰めてくる事情にきちんと触れているのも好印象でしたが、クライマックスと結末の弱さが惜しいです。ここはベタでも大きな危機で物語を盛り上げて、感情を揺さぶって欲しかったところ。

  • 吉野弘幸(アニメーション脚本家)

    「島を訪れた少年と、その島の因習に囚われた少女のボーイミーツガール」というありふれた題材を、ありふれた展開で、しかし、とても丁寧かつ新鮮に描いていることに好感を持ちました。「こうあって欲しい」という物語への欲求にとても素直というか……。ただラストのみ、伝奇ものとして収束するかと思われた物語が、ゼニカネによる非常に世俗的な解決をみるのが、当世風なのかよくわかりませんが、意表を突かれてとても面白かったです。

  • 小原信治(放送作家・脚本家)

    「人柱にされた女の子に恋をして成長する少年の物語」という大ヒット映画と同じ題材にあえて挑んだのか。いや、今の日本なら本当に起きていておかしくないと思わせる点でリアリティではむしろ本作の方が上か。だからこそ「自分たちの幸福の為に誰かを犠牲にする人間の残虐性」という理不尽さをどう回収するのか楽しみに読み進めたが、その点においては肩透かしだった。殺人未遂が裁かれるべき、とは必ずしも思わないが、もう少しカタルシスが欲しかった。

  • 湯浅隆明(電撃文庫統括編集長)

    南の離島で出会った二人のザ・ボーイミーツガール。ちょっと影のある主人公が天真爛漫な少女に振り回される……という文系少年なら誰しも憧れるシチュエーションで楽しく読み進めることができました。歌うま少女の京花もいいツンデレで、彼女がヒロインの物語も読んでみたいとひそかに思いました。結末は編集部の選考でも最終選考でも物議を醸しましたが、個人的にはひとつの解決として違和感なく読めてしまいました。全編をとおしてさわやかな青春ストーリーに仕上がっています。

  • 高林 初(メディアワークス文庫編集長)

    これぞボーイミーツガールという王道の物語。鬱屈としたものを抱えた少年が、少女と出会い成長していく様が見事に描かれています。惜しむらくは、物語の大半を費やす絵を描くまでの構成がクライマックスへの「振り」だけに感じられてしまうこと。こちらも一人称という文体を選択されたのなら、それを十全に活かしていただきたかったです。美しい風景、そして何か秘密を抱えた少女、これらに鈍感なように感じてしまいます。

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