第27回 電撃大賞 入選作品
電撃小説大賞部門

銀賞受賞作

『Out Of The Woods』

著/土屋 瀧

電撃文庫

忘却の楽園I アルセノン覚醒

著者   : 土屋 瀧
発売日  : 2021年3月10日

武器、科学、宗教、
全てを忘れ手に入れた偽りの平和。
忘却の理想郷で少年たちは
"旧世界"の秘密に触れる――。

武器、科学、宗教、
全てを忘れ手に入れた偽りの平和。
忘却の理想郷で少年たちは
"旧世界"の秘密に触れる――。

あらすじ

度重なる争いの後、地表の大部分を海洋が覆う世界。
滅びへ向かう人類を制御するため、武器、科学技術、そして信仰、
すべてを忘れ作り上げられた、忘却のユートピア〈リーン〉。
しかし旧世界が生み出した毒――アルセノンは未だに人々を蝕んでいた。
そんな世界で、少年たちの物語は始まる。
ひとりは、記憶の底にある少女の影を探す少年。
そしてひとりは「アルセノン」を宿した囚われの少女。
触れ合うことのできない彼らが交錯するとき、
世界を変える秘密を巡る争いが巻き起こる。
忘却の新世界を巻き戻そうとするもの、
守ろうとするもの、先へと進めようとするもの。
幾重にも重なり合う謀略を超え少年たちが得るものとは――。

受賞者プロフィール

昆虫が好きです。今年の春、うちの金柑にクロアゲハとナミアゲハが、パセリの苗にはキアゲハが卵を産みました。秋に至るまで、孵化、蛹化、羽化を見守る日々でした。うまくいったりいかなかったり…彼らのむきだしの生死を目の当たりにして、たくさんたくさん泣きました。馬と猫も好きです。どこに行くにもまずは森を通るような、緑の多い町に住んでいます。

受賞者コメント

銀賞をいただき、とても恐縮しています。お焚き上げをしてもらうような感覚で作品を電撃大賞に応募しました。受け止めていただいただけでもうおなか一杯で、まさかこんな結果になるとは思わず、穴があったらいつまででも入っていたい心境です。審査に携わったすべての皆様に感謝申し上げます。ほんとうにありがとうございました。

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

  • 三雲岳斗(作家)

    苛烈な世界観でありながら淡々とした雰囲気を持つ良質なSFジュブナイルで、登場人物がそれぞれ際だって個性的で魅力的です。それだけに主人公格である三人の若者たちが大人の思惑どおりに行動させられて、最後まで逸脱することがなかった点に不満を覚えました。駆け足でストーリーが進行した結果、随所で説明不足を感じてしまうのも勿体なかったと思います。この作者が描くもっと長大な物語を読んでみたい、と思える作品でした。

  • 三上 延(作家)

    世界観や設定が細部まで作りこまれ、多数のキャラクターが絡み合う群像劇をこの紙数に収めた構成力には素晴らしいものがあります。しかしそのせいで物語の軸が拡散してしまい、全てが収束する終盤の展開が窮屈になってしまった点が非常に残念でした。例えば一人の少年と世界の謎を秘めた少女のボーイ・ミーツ・ガールに的を絞って書かれていれば、文句なしに大賞に推していたかもしれません。

  • 吉野弘幸(アニメーション脚本家)

    とても清浄で静謐な印象を受けた作品です。設定などもSFとしてよく練られているし、描きたいものもよくわかり、文章も綺麗で落ち着いています。反面、新人らしい勢いはなく、ベテランの小品のような印象をうけました。それは三人の主人公をほぼ等価に描いているため結果的にどれも少し薄く、全体に淡い印象になってしまっているせいかもしれません。推敲にあたり、既定枚数に収めるため大きくあちこちを削ったのではないかという感触を受けたので、尺を気にせず、3巻完結くらいでたっぶり物語を堪能したいと思いました。

  • 小原信治(放送作家・脚本家)

    愚かな大人たちの尻拭いをさせられる若い世代がどう生きていくか、自分たちの世代で世界は変えられるのかというテーマに「今この時代に必要な物語を書いてやる」という気概を感じた。随所に挿入される食事の描写にも作者が非日常下でも大切にすべきと考える日常への想いを感じた。異世界を舞台にした群像劇という情報量の多さが災いし、規定枚数ではストーリーを伝えるのがやっとだったのであろう部分が目立っていたのがとても悔やまれる。

  • 湯浅隆明(電撃文庫統括編集長)

    人類文明の崩壊後、島国ばかりとなった世界でのボーイミーツガール、というのは大変好みの設定。世界のディテールもよく練られており、キャラクターもみな魅力にあふれていました。特に優しさを持ちながら世のためにマキャベリストとなっている女君主は秀逸。その反面、活躍の機会を奪われてしまった若者勢が色あせて見えてしまったのが難点です。正義とはなにか、世界の理想の在り方とは、という現代的なテーマも考えさせられるものがありました。この世界の物語をずっと読んでいたい、そう思わせる力のある作品でした。

  • 高林 初(メディアワークス文庫編集長)

    確かな筆致で、温暖化により様変わりした近未来の世界を見事に描いています。三人の男女もそれぞれが思考する生き生きとしたキャラクターとなっているのも好印象。ただ大人たちが老獪すぎて、主人公たりえない物足りなさもあります。また群像劇といえば聞こえはいいのですが、どうしても軸が定まらないところも感じました。スケール感はあったが、それが物語の足を引っ張っている、もったいない作品です。

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