第27回 電撃大賞 入選作品
電撃小説大賞部門

選考委員奨励賞受賞作

『モーンガータのささやき~イチゴと逆さ十字架~』

著/川崎七音

メディアワークス文庫

ぼくらが死神に祈る日

著者   : 川崎七音
発売日  : 2021年3月10日

契約すれば死者を蘇らせることもできる。
ただし、寿命と引き換えに――
家族を失った僕に、悪魔が囁いた。

契約すれば死者を蘇らせることもできる。
ただし、寿命と引き換えに――
家族を失った僕に、悪魔が囁いた。

あらすじ

突然の事故で姉を失った高校生、田越桜。
悲しみにくれる葬儀を終えたその日、
桜は、どんな願いも叶えてくれるという悪魔と出会う――
「きみの願いを叶えよう。私にはその力がある。
ただし、対価として寿命をいただく」
モーンガータと名乗る悪魔と契約した桜は、
姉の葉月を蘇らせる代わりに、寿命のほとんどを差し出した。
帰ってきた喜びもつかの間、かつての面影を失った姉はひきこもるように。
そんな中、あるクラスメイトがモーンガータと契約していることを知り……。
余命7ヶ月。残り少ない時間のなかで、死と向き合い、
自分ができることを選択した桜を、待ち受ける結末とは――。

受賞者プロフィール

神奈川県出身、川崎市在住。大事なときによく雨が降ります。中学と高校の修学旅行はすべて雨でした。文化祭もほとんど雨でした。苦手な体育祭のときだけはなぜか晴れました。受賞の連絡をいただいたときは土砂降りでした。雨人間です。誰かを守れる傘のような物語を書いていきたいです。よろしくお願いします。

受賞者コメント

これまでの通例やルール、常識が、あらゆる業界で見直され始めた年での受賞となりました。今年は授賞式がないそうです。ほかの受賞者の皆様とはお会いできないだろうし、担当編集様のお顔もまだ知りません。ですが、こういう状況でしか生み出せない物語がきっとあり、そしてこういう時でも書き続けるのが、小説家という職業なのだと思います。死ぬまで書いて生きていけるように頑張ります。最後に、選考に携わってくださったすべての皆様に、心から感謝申し上げます。ありがとうございました。

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

  • 三雲岳斗(作家)

    設定がシンプルでわかりやすく、ヒロインたちが抱えた問題をひとつひとつ解きほぐしていく過程は楽しく読めました。ただ、論理的な駆け引きではなく、いわばキャラの「お気持ち次第」で問題が解決されてしまうことに、若干の物足りなさは感じます。また主人公の目的に説得力が欠けており、共感しきれない部分が残ってしまいました。それでもキャラクターの根底に善意が感じられて、読後感が爽やかなのは現代的で好印象です。

  • 三上 延(作家)

    他人に見えない悪魔との契約、余命わずかな主人公というオーソドックスな設定ですが、最後まできちんと読ませる作品です。ほぼ一つの高校に舞台が限定され、少年少女たちの悩みに物語が絞られている点は好印象でした。主人公が両親の喪失にほとんど意識を向けないなど、全体的に大人の存在が希薄すぎるので、出さないにしてももう少し丁寧な処理が必要だったと思います。

  • 吉野弘幸(アニメーション脚本家)

    軽妙でしっかりした文章は読みやすく、きちんと伝わりましたが、それが共感を生むかは別問題で、主人公の感情に中々移入しがたく、読みやすさの分、逆に理解できないもどかしさが募ってしまいました。またインスパイアされた先行作品が明確な分、そのネタ元と比べられてしまう不利もあったかもしれません。ただ、それでもオリジナルな作品としてまとめあげており、作家としての力量は充分に感じられます。今後に期待します。

  • 小原信治(放送作家・脚本家)

    リンゴではなくイチゴが好物の悪魔(死神)の設定がパロディとして昇華し切れていなかったように思う。という話はともかく主人公が自分の命と引き換えに姉を生かそうとした動機が希薄だった。主人公が自分の「命」に重みを感じていないからなのだろうが、だとすれば必死になって他人の「命」を救おうとしているのも腑に落ちない。事故死した両親は自分たちの寿命と引き換えに主人公を守っていた、というどんでん返しでもあればもう少し「命の重み」が描けたのではないだろうか。キャラクターがよく描けていたからこそ惜しい。

  • 湯浅隆明(電撃文庫統括編集長)

    モーンガータのキャラクターや寿命と引き換えに願いを叶えるという設定は既視感のあるものながら舞台装置としては鉄板。その中で悩める女子たちを救おうと奔走する主人公のキャラクターは真っすぐで気持ちがよかったです。なぜ彼女たちを救いたいのか、という動機が明確に書かれていれば、さらに感情移入度が高まっただけにその点は惜しまれます。それでも最後の「どちらが生きるべきか」というぎりぎりでむき出しのやり取りは熱量があり、読者を感動させる筆力を持つ書き手だと感じられました。

  • 高林 初(メディアワークス文庫編集長)

    個人的にはとても好きな作品です。決して目新しい題材ではありませんが、最後まで飽きさせず読ませきる力量を感じました。モーンガータはまさにメフィスト的な存在として機能し、その食えないキャラクターが物語を引き立てます。これまた個人的な感想ですが、この題材ならもっと女性読者を意識したたてつけにしたほうが受け入れられやすいとも感じます。物語を進めるためのやや強引な展開もあり、そこはもったいないところです。

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