第28回電撃大賞 入選作品
電撃小説大賞部門

金賞受賞作

『エンド・オブ・アルカディア』

著/蒼井祐人

電撃文庫

エンド・オブ・アルカディア

著者   : 蒼井祐人
発売日  : 2022年3月10日

彼と彼女は敵だった。だから何度も殺し合った。
この二分された世界で、同じ孤独を抱えていたと知るまでは――。

彼と彼女は敵だった。だから何度も殺し合った。
この二分された世界で、同じ孤独を抱えていたと知るまでは――。

あらすじ

クローン技術が発達し、永遠の命に手が届き始めた世界。究極の自動再生プログラム《アルカディア》は、弱き人々を理不尽な死から救う……そのはずだった。
複製した身体に記憶転写(オーバーライト)できるのは10代の若者のみ。この欠陥と軍事転用が、死を超越した少年少女たちを戦場に送り込む。
その1人、合衆国軍の元エース・一之瀬秋人は、度重なる部隊全滅のペナルティとして未踏領域への偵察任務を命じられる。予期せぬ戦闘と地盤崩落で仲間を庇った秋人は、なぜか自動再生(リスポーン)されないまま、因縁の宿敵である連邦軍の少女・フィリア=ロードレインとともに地下深くで孤立してしまい――。
死ぬことのない戦場で死に続ける彼と彼女の、邂逅と共鳴の物語が始まる!

受賞者プロフィール

東京都出身。中学生時代、どんな物語にも終わりが来てしまうことに寂しさを覚え、自分で作ればいいのではと思い至り筆を取る。趣味はドラム、映画鑑賞、FPSゲーム。Wordを立ち上げる度に友人からゲームの招待が飛んでくるため、ついに執筆用のPCを購入する。生来、掃除というものが大の苦手な性格だが、執筆に本腰を入れ始めてからというもの何故か部屋が綺麗になっていく。テスト前に部屋が綺麗になるあの現象と同じである。

受賞者コメント

この度は栄えある賞を頂戴し、誠にありがとうございます。学生時代に電撃文庫へ憧れを抱いてから十余年。こうしてスタートラインに立てることを大変嬉しく思うと同時に、身が引き締まる思いです。最終選考の結果を待っている間はあらゆるものに手が付かず、最後はスマホの前でひたすら腕立て伏せをしていました。別世界に没入し、時間も忘れて楽しめるような小説を読者の皆さまに届けられるよう、精進して参ります。今後とも何卒よろしくお願いいたします。

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

  • 三雲岳斗(作家)

    王道のSFアクションですが、作品の冒頭で提示される世界観や主人公たちの立場がとても魅力的です。設定や展開にやや甘い部分がありますが、個人的にはとても好みの作風でした。主人公を含め登場人物が全体的に類型的で個性が弱いので、キャラクター描写をより深めるとさらに評価が高くなると思います。

  • 三上 延(作家)

    否応なく過酷な戦場に置かれる少年少女が出会い、危機を乗り越えるうちに彼らを取り巻く謎が明らかになっていく展開は王道のエンターテインメントで、今回高い評価をつけた作品でした。生死をめぐる設定の詰めが甘いせいか、主人公たちの葛藤が弱くなった感はありますが、今後の展開が楽しみな作品です。

  • 吉野弘幸(アニメーション脚本家)

    潔いエヴァンゲリオン編成のキャラクター配置に、なんだかほっこりさせられた本作。配置が定番であるが故の安定感はありつつ、やはりオリジナルな味付けが欲しかった印象です。それは装置にしても同じで、アルカディアというシステム一点に賭けたのは成功していますが、それだけではやはりちょっと弱いかな、とも。たとえば戦闘方法やメカニック、特殊能力などでもう一点突き抜けてくれていれば、より高く評価出来たと思います。

  • 小原信治(放送作家・脚本家)

    大人社会の欺瞞を暴き自由を得ようとする少年少女の成長を描くSF青春群像活劇。王道のプロット。緻密に構築された世界観と兵器設定。丁寧に描き込まれた戦闘シーンも秀逸でした。だからこそ登場人物のテンプレ感と紋切り型の台詞が足を引っ張っているのが惜しい。たとえば主人公に「お腹が弱く緊張するとすぐ下痢をする」みたいなクセをつけるとか、自身の存在意義に関わる真実についてももっと苦悩させるべきだったかと。

  • 荒木人美(電撃文庫編集長)

    20歳までなら死を回避できるシステム、戦場で出会う敵同士のボーイミーツガール、大人に従い過酷な戦いへ身を投じることへの疑問……ドキドキできる要素がたくさん詰まった魅力的な物語でした。敵方のエースであるヒロインと心を通わせていく展開にもカタルシスを感じました。キャラクターに好物があったり、弱点があったり、共感できる部分を足してあげると、読者がもっと彼らと喜怒哀楽を共にできるようになるのではと思います。

  • 遠藤充香(メディアワークス文庫編集長)

    死を回避することができる「アルカディア」の着想と、戦線にたつ若者たちの宿命と葛藤に惹き込まれました。繊細に作り込まれた世界観は映像が浮かんでくるようで魅力的です。命を懸けて戦わなければならない主人公たちの強い動機がもう少し説明されると、より一層の没入感とカタルシスを作り出すことができたと思いますが、スケールの大きな物語になっていたと感じました。

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