第28回電撃大賞 入選作品
電撃小説大賞部門

メディアワークス文庫賞受賞作

『きみは雪を見ることができない』

著/オスタハーゲンの鍵

メディアワークス文庫

きみは雪をみることができない

(※応募時『きみは雪を見ることができない』より改題)

著者   : 人間六度(※応募時「オスタハーゲンの鍵」より改名)
発売日  : 2022年2月25日

恋に落ちた先輩は、冬眠する女性(ひと)だった――。
名前のない病を患った彼女との、すれ違う恋の物語。

恋に落ちた先輩は、冬眠する女性(ひと)だった――。
名前のない病を患った彼女との、すれ違う恋の物語。

あらすじ

文学部一年の埋 夏樹(うずめ なつき)はある夏の夜、 美術学部に通う岩戸優紀(いわと ゆき)と出会い、二人は恋に落ちる。 しかし花火大会で優紀は「きみには幸せになってほしい。早くかわいい彼女ができるといいな」と言い、その後姿を消す。 消息を探るためにキャンパスを尋ね回った夏樹が掴んだのは、彼女の奔放な交際歴と「あの子は、冬は学校に来ないよ」という元彼の謎めいた言葉だった。 もう一度会いたくて、なんとかして優紀の実家を訪れるが、そこで彼女が「冬眠する病」に冒されていることを知る。
現代版“眠り姫”が投げかける、人と違うことによる生き難さ、大切な人に会えない切なさ、そして冬を無くした彼女のある秘密――。

受賞者プロフィール

愛知県名古屋市生まれ、私立東海高校卒。13年に急性リンパ性白血病を罹患し、14年にさい帯血移植。全てのドナー様と献血に感謝。18年日本大学芸術学部に進学、21年現在在学中。「RADWIMPS」「sasakure.UK」「ずとまよ」が超好きです。ノベライズさせてください。

受賞者コメント

浪人中に白血病に罹患し、5年ほどの闘病を経て大学進学を果たしました。心が折れそうになっても何とかやってこれたのは、諦めず介護してくれた母親がいたからです。その時の経験をほんの少し練り込んだ本作で本賞を受賞できたので、生きててよかったなって思います。選んでくださりありがとうございます。モンハン等のゲームが大好きです。ネットで見かけた時は遊んでくれると嬉しいです。

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

  • 三雲岳斗(作家)

    個人的にとても印象深かった作品。この物語を満足に描ききるには本賞の規定枚数では不十分で、現在の倍くらい分量があったら、ものすごい作品になっていたのではないかと思いながら読んでいました。それくらいの潜在能力を感じさせる作者です。現在の形でも十分に魅力が伝わってきますが、エピソードの積み重ねが少なくなったぶん、どうしても余韻が不足してしまうのが勿体ないと感じてしまいました。

  • 三上 延(作家)

    秘密を抱えたヒロインとの恋愛もので、高い水準でよくまとまっています。地の文の心理描写が丁寧で主人公に感情移入がしやすく、やや硬さのある会話文もこの世界観にマッチしています。ヒロインの「秘密」は周囲だけではなく、当人の心理に深い影響を与えるものなので、彼女視点のパートがもっと多い方が良かったと思います。

  • 吉野弘幸(アニメーション脚本家)

    文章を含めた作品世界のムードは描きたいものに準じて好印象でしたが、一方で、キーになる冬眠の設定から登場人物の心情まで、少し独りよがりな印象も受けました。冬の間眠るのは確かに大変かもしれませんが、それでも生きてるからいいじゃん、と家族や友人と死別してきた人間としては思ってしまうのですよね。登場人物の抱えるシリアスさに、設定が追いついていないように感じてしまい、個人的にはあまり乗れませんでした。

  • 小原信治(放送作家・脚本家)

    冬の間は死んだように眠り続ける難病の少女という設定には斬新さを感じました。しかしながら、主人公がヒロインのどこに魅かれているのかが掴めないまま物語が進んでしまった印象です。また、逢えない冬の切なさが足りないので、目覚めの春の再会も「あなたが好きです」も盛り上がりが今ひとつ。誰かに愛されていないと生きられないヒロインの深い孤独と刹那がラストまで明かされないのが原因でしょうか。

  • 荒木人美(電撃文庫編集長)

    ヒロインが抱えている「冬の間眠ってしまう」という難病と、奔放にふるまう彼女のキャラクター性のギャップに心惹かれる作品でした。繊細な情景描写により、ヒロインに恋する主人公の「痛さ」や「青さ」が伝わる青春小説に仕上がっていたと思います。ヒロインが抱えている辛さや秘密、奔放にふるまってしまう理由が、物語のもう少し早い段階で出ていたら、より彼女の魅力が伝わりやすかったのではと感じました。

  • 遠藤充香(メディアワークス文庫編集長)

    難病ものの作品の応募が数多くあるなかで、「冬眠する」というの独創的な発想が群を抜いて光っていました。病によって冬の季節を奪われたヒロインの生き方と、彼女に振り回され壊れた過去の恋人。累積する悲劇を乗り越えられるか試すように主人公に降りかかる試練と苦悩、それでもなお彼女を想い続ける一途さ、ラストに明かされるヒロインの秘密と本心に泣きました。王道のなかに新しさをあわせもつ物語です。

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