第28回電撃大賞 入選作品
電撃小説大賞部門

選考委員奨励賞受賞作

『夜もすがら青春噺し』

著/夜野いと

メディアワークス文庫

夜もすがら青春噺し

著者   : 夜野いと
発売日  : 2022年3月25日

何気ない日常の中に「人生の分岐点(フラグ)」はある。
七年間の恋を成就するため、「あの日」に戻って運命を変えろ!

何気ない日常の中に「人生の分岐点(フラグ)」はある。
七年間の恋を成就するため、「あの日」に戻って運命を変えろ!

あらすじ

 「千駄ヶ谷くん。私、卒業したら東堂くんと結婚するんです」
 大学四年生の千駄ヶ谷勝は、よりにもよって大学四年の誕生日に、七年間ずっと思いを寄せている女性・春町亜霧から衝撃の事実を告げられてしまう。彼女は、二人の共通の友人・東堂宗近と結婚するというのだ。
 ショックを受けた勝は、酒で忘れるべく飲み屋をはしごするが、ある店先で店主と会計で揉めている美しい女性と出会う。
 自称「神」を名乗るその女は飲み代を肩代わりしたお礼に、勝を過去に戻らせて、亜霧との関係をやり直させようとする。
 しかし、勝が何度タイムリープし、当時をやり直してみても、亜霧から告げられる結末は変わらなくて――?

受賞者プロフィール

昔から物語を綴ることが好きで、読むより書く派でした。子供時代に携帯で文字を書き始めてから来年で恐らく十五年くらいになります。今ではすっかりPCを持ち歩いて物語を書くようになりました。趣味からスタートした創作をこんなに長く続けるとは思いもしませんでした。こんなにも楽しいと思えるものに出会えることは後にも先にもないでしょう。紅茶とコーヒーが好きで創作の腰が上がらない時は、よく喫茶店で書いてます。

受賞者コメント

この度は素敵な賞をいただき、誠にありがとうございます。電撃大賞は選評というものが気になって応募したのが始まりでした。内容もさして奇をてらったものではないので、一次選考を奇跡的に通過して、もし選評貰うことができたら来年の参考にしよう。と思っていたのですが、あれよあれよと選考が進み、まさかこのような光栄な賞をいただくなんて夢にも思っておりませんでした。選考に携わってくださった皆様に感謝いたします。今後も素敵な作品作りを目指して頑張ります。ありがとうございました。

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

  • 三雲岳斗(作家)

    人生の分岐点限定・回数制限つきの時間遡行など、設定面で光るものがありましたが、それを十分に活かしきれていない印象を受けました。優柔不断な主人公や周囲の人々の言動もストレスフルで、全体的に共感しづらかったのも残念です。ただ、作中の雰囲気や文章が醸し出す空気感は素晴らしく、作者の高い筆力を感じました。設定を簡略化し、描きたいことを整理して絞りこめば、より魅力的な作品になるのではないかと思います。

  • 三上 延(作家)

    タイムリープを使ったアイディアに目新しさはないものの、一見すると何もない学生生活の中に潜む運命の分岐点があるという筋立て、どうしてもあと一歩の勇気が出せない主人公には個人的に共感するものがありました。文章は非常に読みやすく、作者の力量は疑うべくもないのですが、中盤以降の展開が一本調子になってしまった点が残念です。タイムリープならではの状況の変化がもっと欲しかったところです。

  • 吉野弘幸(アニメーション脚本家)

    いわゆるループものですが、やり直しで解消すべき障害が本人の意気地だけなのは、読んでいてただじれったく、また親友の求婚を受け容れている世界線がある時点でヒロインの魅力も下がり、あまり物語に乗れませんでした。ただその一方で、乗れずにいても読ませてしまう地力はあり、題材やキャラなど、あと少しアジャストできればさらに良いものが出来るだろうという期待感もあり、奨励賞ということになりました。

  • 小原信治(放送作家・脚本家)

    タイムリープの代償として命に危機が及ぶというルールには独自性を感じましたが解釈が曖昧かつ、機能していない印象です。いっそのこと恋の成就と引き換えに明日には死ぬという等価交換的な幕引きでも良かったかと。キャラクターには賛否ありましたが、大切に思うからこそ想いの半分も伝えられない主人公に僕自身は共感できました。目新しさはないものの主人公の動機には普遍性があり幅広い層に届く作品ではないでしょうか。

  • 荒木人美(電撃文庫編集長)

    何度もタイムリープしながら、初恋の女性との恋を成就させようとする青春小説。軽妙な語り口で、読後感良く読ませる文章力があったと思います。大学生活の描写は、甘酸っぱさや爽やかさを感じることができました。ただ、タイムリープものとしてはやや物足りない部分も。読者がストーリーを読み進める動機として、過去に戻る度「そこで何を変える必要があるのか」という目的が欲しかったところです。

  • 遠藤充香(メディアワークス文庫編集長)

    七年間の片想いを実らせるためタイムリープを繰り返す冴えない大学生の奮闘を自然と応援したくなる、読後感爽やかな物語でした。きっと逃してはいけない運命の恋、過去の後悔をやり直したいという普遍的な願望が、作品への強い没入感につながっていました。誰にも通じる物語である一方で、ならではの独自性が作り切れていない印象も。とびきり好ましい読後感にもかかわらずあと少し物足りなさが残ったのが惜しかったです。

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