第29回 電撃小説大賞 入選作品
電撃小説大賞部門

大賞受賞作

『ドッペルゲンガーは恋をする』

著/榛名丼

電撃文庫

レプリカだって、恋をする。

(※応募時『ドッペルゲンガーは恋をする』より改題)

著者   : 榛名丼
発売日  : 2023年2月10日

ニセモノの体で、はじめての恋をした。

ニセモノの体で、はじめての恋をした。

あらすじ

具合が悪い日、面倒な日直の仕事がある日、定期テストの日……。彼女が学校に行くのが億劫な日に、私は呼び出される。
愛川素直という少女の分身体、便利な身代わり、それが私。姿形は全く同じでも、性格はちょっと違うんだけど。
自由に出歩くことはできない、明日の予定だって立てられない、オリジナルのために働くのが使命のレプリカ。
だったはずなのに、恋をしてしまったんだ。
私のことを見分けてもらうために、髪型をハーフアップにした。
学校をさぼって、内緒で二人きりの遠足をした。そして、いろんな場所に二人で行く約束をした。
でも、やっぱり私は普通の人間と同じ生き方はできなくて――。

受賞者プロフィール

静岡県静岡市出身。猫とオカメインコとのんびりいちゃいちゃ暮らしている。榛名丼のドンは今話題のハッピーグルメ弁当(静岡ローカルCM)がもともとの由来。

受賞者コメント

ご連絡いただいたとき、動揺のあまり「大賞っていちばん上の賞ですか?」とお訊ねしてしまいました。小学生の頃から憧れていた電撃大賞という夢の舞台にて賞を頂戴できましたこと、光栄に思います。執筆に行き詰まるたび家から徒歩五分の海を、ぼんやりと眺めに行っていました。これからも海やら山やらを眺めつつ、物語を紡いでいきます。

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

  • 三雲岳斗(作家)

    トリッキーな設定ながらも非常に読みやすい青春小説で、総合的な完成度は候補作の中でも頭一つ抜けていました。キャラクターの魅力と読後感の爽やかさがとても印象的な作品だと思います。選考では電撃らしくないという意見もありましたが、同じ設定でSF方面に話を膨らませることも可能ですし、レーベルの可能性を広げてくれる作品として個人的に期待しています。

  • 三上 延(作家)

    人間とドッペルゲンガーの入れ替わり、というテーマはオーソドックスですが、ドッペルゲンガー側の視点で描かれている点が個人的に新鮮でした。いつ全てが失われてもおかしくない、不安定で孤独な日常を送る高校生の青春小説として非常に完成度が高く、私が大賞に推した作品でした。寂寥感と緊張感に満ちた前半に比べて後半がやや平板で、主人公たちが互いを理解し合う過程の盛り上げ方やクライマックスの展開にもう一工夫があれば、さらによかったと思います。

  • 吉野弘幸(アニメーション脚本家)

    まずドッペルゲンガー側の一人称、というアイディアが秀逸で引きつけられました。文章力も安定しており、またどの登場人物にも嫌みがなく、素直に好きになれるキャラクター付けが作品全体への好印象に繋がりました。ただ、最後の最後でロジックがわからなくなる部分があり、それは少しマイナスでした。しかし読後感は抜群に良く、他の選考委員の方々からの強い推しもあり、大賞となりました。

  • 小原信治(放送作家・脚本家)

    ドッペルゲンガー(DPG)が登場する作品は数多あれどDPG視点で描いた斬新さも大賞に推された理由だと思います。序盤がやや冗長に感じましたが、DPGが恋心で暴走し始めてから俄然ドライブしてくる。影法師に過ぎない存在の儚さが人魚姫の恋のように切なさを増幅させる。真実を告げるか否かの苦悩。本物に露見するのではないかというサスペンス。中盤の種明かしが今のタイミングで適切なのかだけが疑問です。

  • 黒崎泰隆(電撃メディアワークス編集部 部長)

    ドッペルゲンガーが人間らしくなっていくところが、とても微笑ましく、素敵な物語になっています。ニュートラルな視点で高校生活が丁寧に描かれることで、学園青春ものとしても新鮮に映ります。マスター(人間)に雑な扱いを受けても健気に人間のことを考えて行動するドッペルゲンガーは愛すべきキャラクターで、誰もが感情移入してしまうのではないでしょうか。大賞にふさわしい、美しくまとまった良質な作品と言えます。

  • 遠藤充香(メディアワークス文庫編集長)

    「分身」を主人公に据えた青春恋愛小説という新しさに、高い独創性を感じました。誰かの身代わりであるために不自由な制限を持ちながら、その制約のなかで精一杯恋をする彼らのキラキラした心情に、思わずきゅんとし胸を打たれ、応援したくなっていました。独創的な設定がいかされた物語展開に、青春小説に求めるすべての要素が詰まっていました。爽やかな読後感、その完成度の高さから圧倒的な評価を得て大賞となりました。

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