第29回 電撃小説大賞 入選作品
電撃小説大賞部門

金賞受賞作

『勇者症候群』

著/彩月レイ

電撃文庫

勇者症候群

著者   : 彩月レイ
発売日  : 2023年2月10日

世界に仇なす《勇者》を殲滅せよ。

世界に仇なす《勇者》を殲滅せよ。

あらすじ

勇者、それは世界を救う特別な力。夢の世界で「勇者」と称えられた少年少女は、ただ美しき女神の言うまま魔物を倒していた。
――その魔物が“人間”だとも知らず。
《勇者》、それは世界を滅ぼす特別な力。謎の生物「女神」に寄生された少年少女は、無意識の怪物として現実を侵食していた。
そこに悪意はなく、敵意もない。ただ一方的な正義のみが押し寄せる終わりなき戦い。その均衡は少年・アズマが率いる勇者殲滅の精鋭部隊『カローン』によって保たれていた――。
軍で《勇者》を人に還す研究をしていた少女・カグヤは、ある日『カローン』への所属を命じられる。だが過去の災厄で全てを失ったアズマたちにとって、カグヤの存在は受け入れ難いもので……。
少年は勇者を斃すため。少女は勇者を救うため。二人は衝突しながら、ともに《勇者》のいる戦場へと赴く――!

受賞者プロフィール

福岡出身、千葉県在住。仕事の傍ら小説を書いています。
好きなものはゲーム全般。最近は床にインクを塗るゲームにハマってます。
今の悩みは、パソコンがガタガタなので買い替えたいということ。
千葉近郊のカフェで作業することが多いです。どこかでお会いしたことがある方もいるかもしれませんね。

受賞者コメント

この度は身に余る素晴らしい賞をいただき、誠にありがとうございます。
この度の選考に関わってくださった皆様、選考委員の皆様、当作を選んでいただいた編集部の皆様に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。
初めて小説を書いたのは中学生のときです。人とあまり話さず、一人で本ばかり読んでいる浮いた中学生でした。
その頃の私を支えたのが、小説でありライトノベルでした。昔私が支えられたように、当作が昔の私のような誰かの支えになれればと願っております。
今日が作家としての第一歩だと思っています。これからも作品を作り続け、そして走り続けていきます。よろしくお願いいたします。

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

  • 三雲岳斗(作家)

    流行りの異世界召喚と思わせておいての都市防衛モノで、ところどころ既視感のある雰囲気ながらも手堅くまとまった完成度の高い作品でした。一方で戦闘シーンの躍動感やカタルシスに乏しく、せっかくの魅力的な設定やキャラクターが充分に活かされていない印象もあります。題材的にはもっと面白くなる作品だと思いますので、ぜひ効果的な演出を追求していただければ。

  • 三上 延(作家)

    設定や展開に気になる点はありますが、非常にリーダビリティが高く、いい意味で吹っ切れている作品です。こういう物語をもっと読みたいと思わせる内容でした。この作品に関しては下手に細部の設定を整えるよりも、より強大な「勇者」と戦いつつ「女神」の謎に迫っていくことに特化する方がより面白くなると思います。個人的にはもっともっと吹っ切れて欲しいです。

  • 吉野弘幸(アニメーション脚本家)

    今回の最終選考作品で、いわゆるバトルものに分類できる唯一の作品でした。ただ、『勇者と錯覚している異形』という秀逸なアイディアに比して、キャラから小物から、何もかもが追いついていない印象で、特にミリタリーふうの戦闘部隊がでてくるわりに、著者自身がそこに興味がないのがまるわかりなのは残念でした。テーマなども、深掘りできそうなところがすべて浅めで、とにかくもったいない、というのが一番の感想です。

  • 小原信治(放送作家・脚本家)

    自分の理想世界に闇墜ちした人間は歪んだ正義感で現実社会に悲劇をもたらす怪物「勇者」と呼ばれる。冒頭の掴みから風刺の効いた社会派のエンタメでした。「無敵の人」というスラングを生んだ某氏は「彼らのような人間を制限する手段を社会は持っていない」と警笛を鳴らしましたが、本作からは「理解し合えなくとも、寄り添うことはできる」という書き手の優しさを感じました。スケール感から言えば後半にもうひと展開あってもと。

  • 黒崎泰隆(電撃メディアワークス編集部 部長)

    人間を襲う「勇者」と呼ばれる化け物と、それを撃退すべく活動している勇者殲滅軍といった世界観がユニークで、勇者の設定もよく練られていて、物語全体に深みをもたらしています。人間くさいキャラクターも魅力的。高揚感たっぷりのバトルとシリアスな人間ドラマを、見事なエンターテインメントとして昇華させていて、感心します。ビジュアル映えしそうなので、イラストがついて刊行されるのを、心から楽しみにしています。

  • 遠藤充香(メディアワークス文庫編集長)

    「女神」なる存在に卵を産み付けられた「勇者」が人間を襲うという不条理な世界で、勇者と戦う人々の戦場を、カタルシスをもって描き切った大作でした。命がけで任務にあたる勇者殲滅軍の隊員たち、戦闘部隊に赴くことになった研究者それぞれの過去と悲哀が、やがて訪れる運命の瞬間まで重奏的に展開され、その一つ一つが胸に迫りました。トレンドに媚びない骨太な物語だと感じ、今から反響が楽しみです。

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