第29回 電撃小説大賞 入選作品
電撃小説大賞部門

メディアワークス文庫賞受賞作

『賽の河原株式会社』

著/塩瀬まき

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メディアワークス文庫

賽の河原株式会社

著者   : 塩瀬まき
発売日  : 2023年2月25日予定

職場はまさかの三途の川!?
訳ありなお客様に新人社員が大奮闘!!

職場はまさかの三途の川!?
訳ありなお客様に新人社員が大奮闘!!

あらすじ

大学卒業後、とある理由から全く就職先が見つからなかった佐倉至。数多の不採用通知の中で、唯一彼を採用してくれたのが「賽の河原株式会社」だった。採用理由はただ一つ、「霊感がある」から。いかにも怪しいこの会社。その業務内容は、三途の川――あの世とこの世を隔てる川――を渡すこと。お客様はもちろん亡き人々。渡し賃は六文銭。しかし、中には三途の川を渡ることができない事情を抱えた者もいた。頑なに川を渡ろうとしない女の子、六文銭を持たない中年男性…。
死んだら全てが終わりじゃない。誰にだって事情がある。先輩社員の真城終一と共に、彼らの事情を紐解いていく至。その想いと向き合ううちに、至の心はやがて自分自身へと向いていき――。

受賞者プロフィール

岡山県出身。小学生の頃、友人とはじめたリレー小説のバトンが途切れてしまったあともひとり走り続けて現在にいたる。趣味は読書と舞台鑑賞。特技は映画の予告で泣くこと。執筆に挑む御供としてミルクティーとチョコレートを従えたところ、謀反にあい体重が五キロ増えました。

受賞者コメント

このたびは栄誉ある賞をいただきまして、誠にありがとうございます。この場をお借りして、選考に携わられたすべての方に篤くお礼を申しあげます。
この物語を書いているとき、私は無職でした。自分でも、小説より履歴書の自己アピール欄を書くべきだとわかっていました。ですが当時の私は、社会における存在意義を見失い、折れかけた背骨を支えるべく、小説を書くことにすがりつきました。
そんな現実逃避の塊に、こんなにも立派な冠を賜り、正直なところとても困惑しております。しかしそれと同時に、とてつもない喜びを抱いていることも事実です。今はただ、一秒でも長くこの喜びを抱きしめていられるよう、精進したいと思います。

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

  • 三雲岳斗(作家)

    亡者を彼岸に送り届ける会社という発想は秀逸で、生前交流があった人々を訪ねて顧客の人生が解き明かされていく過程にはミステリ的な面白さがありました。ただ、仕事に対する動機も含めて主人公の行動原理が不明で、場当たり的にいい人を演じているだけに思えて共感できなかったのが残念。また、会社や三途の川などの設定が曖昧でわかりづらいので、そのあたりが整理されると面白さが増すと思います。

  • 三上 延(作家)

    ファンタジー要素のあるお仕事ものとして、非常に高いレベルでまとまっています。死者を送るという重いテーマにふさわしく、安易な和解に頼らないストイックさも好印象でした。連作短編としての構成は申し分ありませんし、それぞれに事情を抱えた同僚たちのエピソードも読ませますが、終盤の主人公周りのエピソードには少々無理があり、このあたりがもっと丁寧に処理されていれば、読後感はさらによくなったと思います。

  • 吉野弘幸(アニメーション脚本家)

    読み始めて、まず作品世界のリアリティレベルがよくわからなくて困惑しました。ただそれ以上に苦手だったのは『詳しいことを説明しない周囲』と『勝手な判断でトラブルを起こす新人』で話を回すスタイルで、これは、特に最近の読者に対して悪手だと思っているので、個人的には厳しい評価をさせてもらいました。しかし全体の雰囲気は悪くなく、また推す声も多かったため、将来への期待も込みでMW文庫賞受賞となりました。

  • 小原信治(放送作家・脚本家)

    死はそれだけで悲しいが、誰にも悲しんで貰えない死にはより深い哀しみがある。賽の河原自体に目新しさはなくとも、孤独死や無縁仏という社会問題を織り込んだことで独自性を獲得していると思いました。「誰にも愛されなくて、誰にも必要とされなくて、それなら俺たちは、なんのために生きていたんですか」という一節に書き手の憤りを感じ胸が締め付けられました。随所に散りばめられた擬態語も楽しい。連ドラ化希望です。

  • 黒崎泰隆(電撃メディアワークス編集部 部長)

    三途の川の渡し船を運営する「賽の河原株式会社」で働く青年を主人公に、人間の様々な感情を掘り起こして描写していく作品。設定としては珍しくないかもしれませんが、短編連作の各エピソードに登場する人物はもちろん、職場の先輩たちも人間的に深く丁寧に描かれていて、読む者の心を揺さぶってくる物語に仕上がっています。その高い筆力は、十分に受賞に値します。

  • 遠藤充香(メディアワークス文庫編集長)

    死者たちを彼岸に送り届ける、三途の川の渡し船の新米船守という、ありそうでなかった設定が新鮮で惹き込まれました。成仏できない死者たちの生前の事情と、彼らに寄り添い奮闘する主人公の想いが巧みに重ね合わせられていく展開に、読後、温かい感動に包まれました。死を題材にしてこんなにも優しい物語が描けるなんて。多くの人に読んでいただきたい文句なしの受賞作です。

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