第29回 電撃小説大賞 入選作品
電撃小説大賞部門

選考委員奨励賞受賞作

『透過色彩のサイカ』

著/成東志樹

メディアワークス文庫

君が死にたかった日に、僕は君を買うことにした

(※応募時『透過色彩のサイカ』より改題)

著者   : 成東志樹
発売日  : 2023年7月24日

買ったあいつと、買われた俺は、たぶん同じように飢えていた。

買ったあいつと、買われた俺は、たぶん同じように飢えていた。

あらすじ

「買わせてよ。君の時間を、月に20万で」
高校2年の冬、枕元には母の骨があった。長く闘病した母が死んで、一度も頼れたことなどなかった父は蒸発した。
全てを失った少年・坂田は、突然目の前に現れた西川と名乗る男に、奇妙な取引をもちかけられる。
母の葬式代を稼ぎたい一心で応じた坂田に、実は同い年だという西川が提示した条件は、更に不可解なものだった。
1.毎日、高校にくること
2.同じ大学に合格して通うこと
3.今日から友達としてふるまうこと
金で結ばれた関係はやがて説明のつかない「本物」へと形を変える。愛に飢えた少年たちが紡ぐ、透明な青春譚。

受賞者プロフィール

愛媛県松山市出身。東京の隅っこで会社員をしている。猫はメインクーンが、犬はシベリアンハスキーが好き。大きい動物はロマン。
好きなジブリは『もののけ姫』で、ヤックルが推し。初投稿から十年越しに賞をいただき、まだ驚きのさなか。

受賞者コメント

この度は素晴らしい賞をいただき、ありがとうございます。
これまで良くて1次通過の結果しか出せておらず、このような評価をいただいたこと、有難く思いながらも未だ実感がありません。
自分の思うすべてを詰め込んだ小説でした。選考に関わっていただいたすべての方にお礼申し上げます。
読む人の心を揺さぶる小説を書き続けられるよう、これからも日々精進してまいります。

選考委員選評

※本選評は応募時の原稿に対してのもので、刊行されたものとは異なります。

  • 三雲岳斗(作家)

    キャラクターがとにかく鮮烈で印象的な作品でした。ただ前半の物語の密度に対して、後半の展開は少し物足りなさを感じます。結末も予定調和の範囲内で納得感がなかったので、そこでもう一工夫欲しかったかも。登場人物の心情を描くのは抜群に上手い方なので、無理に悲劇的な方向に持っていかず、日常を丁寧に描いた作品を読んでみたいと思いました。

  • 三上 延(作家)

    主人公の境遇は愛人契約のメタファーで、得体の知れない強者に「買われる」不安や葛藤の心理描写がとても優れています。家族が機能不全に陥っている中、主人公が不信に苛まれながら日々を送る前半に引きこまれて、個人的に高い評価を付けました。とはいえ、なぜ主人公は買われたのかという謎一つで長編の物語を引っ張っていくのは難しいですし、終盤で明かされる真相にも、もっとひねりが欲しかったところです。

  • 吉野弘幸(アニメーション脚本家)

    物語のスタートの条件のイビツさから、いわゆる「泣き」に属する物語なのだろうことは容易に想像できました。この定番ジャンルで戦う場合、あとはどれだけ意外な展開や設定を見せてくれるかが勝負になるわけですが、それが同性同士の友情を越えた恋慕の情に由来するものだった――ということのみだったのは、少し厳しかったです。文章は上手く、読ませる力もあり「泣き」を成立させる地力はあると思います。次作に期待します。

  • 小原信治(放送作家・脚本家)

    「波にさらわれる砂の城は作らない」のようなハードボイルドな表現。ニヒリズムな世界観に貫かれた社会派青春小説。個人的な好みもあり中盤までは本作が1位でしたが、生い立ちへの葛藤にリアリティと凄みがあったからこそ、同性愛を葛藤なく受け入れる主人公に拍子抜けしてしまいました(ならば彼の性的指向も匂わせておくべきだったかと)。「愛を金で買うことの是非」についても深掘りして欲しかったです。

  • 黒崎泰隆(電撃メディアワークス編集部 部長)

    文章力が高く、とくに登場人物の心情描写が上手なので、ラストまで息つく暇なく読み通してしまいました。穏やかな日常の中で、男性二人の謎めいた関係性を丁寧に描いていくわけですが、目の前に映像が浮かんできそうなリアルさは秀逸。ラストで明かされる秘密が、ややインパクトに欠けるところは残念ですが、全体的にキレイにまとまっている点を、評価したいです。

  • 遠藤充香(メディアワークス文庫編集長)

    恵まれない環境で生きる高校生の主人公が、多額の報酬と引き換えに、突如現れた少年に雇われ共同生活を送るという衝撃の幕開けに心を掴まれました。貧困や虐待という社会問題を織り交ぜながらも、希望や純粋さを見失わない子供たちの姿が瑞々しく描かれていたのが印象的でした。なぜ主人公が雇われたのか、最大の謎が明かされる結末まで心を掴まれっ放しでした。

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