第30回 電撃大賞 入選作品
電撃小説大賞部門

大賞受賞作

『竜胆の乙女 / わたしの中で永久に光る』

著/fudaraku

メディアワークス文庫

竜胆の乙女 / わたしの中で永久に光る

著者   : fudaraku
発売日  : 2024年2月24日

物語は、三度、進化する。

物語は、三度、進化する。

あらすじ

明治も終わりの頃である。病死した父が商っていた家業を継ぐため、東京から金沢にやってきた17歳の少女・菖子(しょうこ)。どうやら父は「竜胆(りんどう)」という名の下で、夜の訪れとともにやってくる「おかととき」と呼ばれる異形の存在をもてなし、財を成していたようだ。かくして二代目・竜胆を襲名した菖子は、初めての宴の夜を迎える。おかとときを悦ばせるための商物(あきもの)である三人の青年達の肉体を酷使する悪夢のような「遊び」の数々。何故、父はこのような残酷極まりない商売を始めたのだろう?怖いけど目を逸らせない魅惑的な地獄遊戯と、選考会を騒然とさせた、竜胆と共に辿り着く驚くべき物語の真実――。魂の、和風幻想譚。

受賞者プロフィール

石川県金沢市在住。座右の銘は「後生畏るべし」
書く人すべてに敬意を払い、読む人すべてに感謝いたします。

受賞者コメント

この度は大賞というすばらしい賞をいただきたいへん光栄に存じます。選考委員の皆様、下読みの皆様、編集者の皆様、その他選考に携わった方すべてにお礼申し上げます。本当にありがとうございました。

選考委員選評

  • 三雲岳斗(作家)

    緻密な描写力で独特の世界観を描き出す、極めつきの問題作でした。淡々とした筆致で綴られる異形の存在とのやりとりは不気味ながらも美しく、目眩がするような不安感とともに作中世界に一気に引きこまれてしまいます。一方で作中の理不尽な展開にもしっかりした理由付けがなされており、単なるホラーの枠では収まらない懐の深い作品だと感じます。電撃大賞という場が本作に相応しかったのかどうかは議論のあるところですが、間違いなく大賞に相応しい力量を感じさせる作品でした。

  • 三上 延(作家)

    泉鏡花を連想させる偏奇的・幻想的な作風は、独自性の高さの点で飛び抜けていました。特殊な舞台設定を書きこなす安定した文章力、残酷な宴が繰り広げられる前半の描写が特に秀逸です。ただ、物語が大きく動く後半の展開は審査員の間でも意見の分かれたところ。前半のどこかに後半の内容に繋がるような予兆があれば、さらに良かったと思います。

  • 吉野弘幸(アニメーション脚本家)

    ある大きな特徴のせいで大変選考が悩ましく、もっとも議論の割れた作品でした。読んだときから、これは非常に興味深い作品だが、荒れるな、という予感があり、実際その通りになりました。私はどちらかといえば推すことには及び腰だったのですが、しかし、議論をする中で、最終的にこの作品を世に出す……というより、強く世に問うてみたい、という総意が選考委員の中に生まれ、結果、二本目の大賞受賞という結果になりました。

  • 小原信治(放送作家・脚本家)

    個人的には選考に携わらせて頂いた4年の中でも傑出した才気でした。技術的な評価はもちろんですが、何より書かなければならないという切迫感が滲み出ているように感じられたからだと思います。美しい日本語で綴られた残虐行為の数々。得体の知れない怪に生け贄を差し出すことでしか存在意義を見出せない人々。自らのかさぶたを剥がし抉り出した血で書かれたのではないかと錯覚するような痛みさえ感じました。文句なしの大賞です。

  • 阿南浩志(電撃文庫編集長)

    鮮烈に印象に残った高評価ポイントと、強烈に受け入れがたい要素を併せ持つ作品で、個人的には最後まで評価に悩みました。選考会の中でももっとも賛否が分かれた作品ですが、この得体のしれない作家性に「大賞」を与えることに最終的にはみなが納得していたと思います。ひどく残酷な異形を緻密な筆致で描く和風ホラーで、その核心にふれると何を語ってもネタバレになってしまうと思うので口を慎みますが、興味を持った方は是非その目で見届けて欲しいです。

  • 遠藤充香(メディアワークス文庫編集長)

    参りました、の一言です。独創性の塊のような、なにかとんでもないものを読んでしまったような。明治の終わり、金沢の湿度を感じさせる流麗な文体に心を掴まれ、謎の異形との残虐な宴に背筋が粟立ち、予想を次々と裏切られていく展開に、気づけば夢中で読み終えていました。読後、沸き起こるいくつもの作品解釈に、まるでこちらが試されているかのような心地にすらさせられる。圧倒的存在感を放って大賞受賞です。

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