第30回 電撃大賞 入選作品
電撃小説大賞部門

メディアワークス文庫賞受賞作

『残月ノ覚書 ―秦國博宝局心獣怪奇譚―』

著/羽洞はる彦

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メディアワークス文庫

残月ノ覚書 ―秦國博宝局心獣怪奇譚―

著者   : 羽洞はる彦
発売日  : 未定

あらすじ

流浪の民・勾蓮が、先住の民・鳳晶を制圧し興した国、秦國。人並外れた美しさと類稀な能力を持つ鳳晶は恐れられ、建国から三百年経つ今も忌避され続けていた。
そんな秦國の都で奇妙な女の骸が発見された。宮中一の閑職と名高い博宝局の唯一の官吏であり、局長を務める美しき鳳晶の青年・万千田苑閂は、第一皇子の命令で強制的に配属された仮の部下と共に、事件を調査することに。なぜなら、文化財の保護と管理を担う博宝局の真の職務は、鳳晶が作った工芸品〝鳳心具〟の引き起こす怪異な事件を秘密裏に解決することだからだ。持ち主の心の闇や欲を具現化する〝鳳心具〟による様々な事件は、やがて苑閂の秘められた過去へと繋がり――。

受賞者プロフィール

広島県出身。特技は夢想と昼寝。趣味は美術館でぼーっとすること。幼い日、将来の夢を尋ねる空欄に「作家」と記したものの、全然違う道を右往左往し、さまようこと幾星霜。突然に夢が叶い、震えが止まらない。きっとこれは武者震い。

受賞者コメント

このたびは栄えある賞をいただき、誠にありがとうございます。選考に関わってくださったすべての皆様に、あつく御礼申し上げます。拙作を応募するなら電撃大賞で、と長年憧れていた舞台で賞を頂戴し、驚きとうれしさでいっぱいです。物心ついた頃から、本の虫でした。社会人になり、なかなか読書に没頭できなくなっても、かつて出逢った本の言葉たちをポケットに忍ばせ、時折、取り出して眺めては、助けられてきました。自分もそんな物語を紡げるように、精進致します。

選考委員選評

  • 三雲岳斗(作家)

    極めて高い完成度を誇る東洋風ファンタジーで、個人的に強く推した作品です。短編連作形式ながらも登場人物の心情が丁寧に描かれており、実際の分量以上の読み応えがあると感じました。個々のキャラクターや小道具である鳳心具の設定も秀逸です。終盤やや小綺麗にまとまりすぎてしまったという意見もありましたが、物語の導入部と思えば充分かと。今後の展開がとても楽しみな作品です。

  • 三上 延(作家)

    最終選考候補作では珍しい伝奇ファンタジーで、怪異譚としても楽しく読みました。人の病んだ心が「鳳心具」に作用して「心獣」を生み出すギミックは分かりやすく、連作短編のエピソードを重ねつつ、真相に迫っていく構成もよく整っています。物語があまり殺伐としていないのは好感が持ましたが、物語のギミックを考えると心理描写についてはもう少し湿気のある、ドロドロした部分があっても良かった気がします。

  • 吉野弘幸(アニメーション脚本家)

    キャラや世界観に作者の好みが詰め込まれている感じや、また連作短編としての体裁などもきちんとしていて、大変好ましく読ませて貰った作品です。あえて言えば、短編ひとつひとつがサラリと読めて良い分、少しずつ弱く感じられ、唸らされるオチや感情の沸き立ちが少なかったこと、また、連作で引っ張ったわりに全編を通じた事件の全体像や犯人の動機、解決の甘さが気になり、そのあたりは少し残念でした。

  • 小原信治(放送作家・脚本家)

    点描画のような小説だと思いました。選び抜いた言葉で組み上げられたしっかりした世界観のおかげで没入感も高かったです。神話的な世界で繰り広げられる怪奇譚に現代の社会問題を絡めたことでそれらが普遍的な問題のように感じられました。「心獣」という観念的な怪とのバトルシーンで読み手の心に立ち上がる獣の姿。ラストの「誰もが心に獣を飼っている」という台詞に一番怖いのは自分かもしれないと身震いさせられました。

  • 阿南浩志(電撃文庫編集長)

    鳳心具と呼ばれる特殊な工芸品を収集する宮中部署を舞台にした東洋風怪異譚ですが、バックボーンや設定を丁寧に紹介しつつ、かつ緻密に伏線もはり、各章で読者に見せるべき情報を適切に配置している、非常に密度の高いお手本のような構成。その上でなんといってもキャラが良い。鳳心具をきっかけに露わになる人の妬みや嫉み、あるいはやるせない悲しみや怒りといったネガティブな感情が説得力をもって描けているため、メインキャラだけでなく脇役でさえも人間としての重みや存在感を感じさせてくれました。

  • 遠藤充香(メディアワークス文庫編集長)

    人の心に反応し怪異を引き起こす呪いの工芸品と、怪異を解決し文化財を保護する局員達が見た人間ドラマを描いたファンタジー。民族の確執の歴史を背景に練り上げられた壮大な世界観、中毒性のあるキャラ造形、陶酔感のある文章どれをとっても完成度が高く、いつまでも浸っていたくなりました。キャラクター文芸でも人気のジャンルですが、久々に読み応えのある物語に出会え、今から反響が楽しみです。

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