なげやりな日々を送る高校生の優希。夏休み前のある日、彼はひとり孤独に絵を描き続ける少女・さやかと出会う。――わたしの復讐を手伝ってくれませんか。人の視線を恐れ、目を開くことができなくなってしまったさやか。それでも人を描くことが自分の「復讐」であり、絶対にやり遂げたいという。彼女の切実な思いを知った優希は絵の被写体として協力することに。二人きりで過ごすなかで、優希はさやかのひたむきさに惹かれていく。だけどさやかには、優希にも打ち明けていないもう一つの秘密があって……。思いがけない結末にもう一度ページをめくりたくなる、感涙必至の青春ラブストーリー。

シンガポール生まれ,ドバイと横浜育ちのミレニアムベイビー。こう書くとまるでハイスペックですが日本語しか話せません。ペンネームは漢字で書くと一(にのまえ)全(あきら)。ワンフォーオール、オールフォーワンの精神で頑張ります。

この度は栄えある賞をいただき、誠にありがとうございます。選考に関わられた全ての方々に篤く御礼申し上げます。高校二年生の冬、その年の電撃大賞の受賞作『エイティシックス』を読み、その面白さと衝撃に「自分もいつかこんな衝撃を誰かに与えてやりたい」と思い、書き始めました。それから色々あって二十歳の冬、「三年挑戦させてほしい」と、小説に打ち込む期間をもらいました。その三年目、まさか電撃大賞で賞を賜ることになるとは思いませんでした。唐突に開けた明るすぎる視界に眩暈すら覚えますが、なりたくて目指した作家の道です。いつかの自分の願いを叶えるため、全力で頑張ります！

• 三雲岳斗（作家）

  深刻な設定に反して作中の雰囲気は必要以上に重くなりすぎることもなく、清々しい読後感の作品でした。やや文体が砕けすぎている印象もありますが、登場人物たちの会話の掛け合いも楽しく、作者のセンスを感じます。残念だった点は、主人公たちが自らの苦悩をあっさりと自分で語ってしまったところ。そこに至るまでの過程をもう少し丁寧に描けていたら、より魅力的な作品になったのではないかと思います。

• 三上 延（作家）

  絵画を題材にした良質な青春小説です。登場人物の抱えている問題を疾患にした必然性に疑問は残るものの、主人公たちが励まし合いながら立ち直っていく過程は気持ちよく読めました。恋愛要素に頼ることなく、クリエイターの執着やクリエイターを支える心情を前面に出した点も好感が持てます。読後感の良い作品でした。

• 吉野弘幸（アニメーション脚本家）

  偽盲、双眸喪失などの疾患によるギミックと、その解消はなかなか面白く読ませてもらいました。ただ、やはり芸術方面の苦悩の話なので、一般性を欠くのは痛し痒しというところでしょうか。とはいえヒロインのキャラは好ましく、主人公へのひっくり返しもあって飽きることなく読めました。全体的に軽やかな歯触りで、それはそれでひとつの価値だとは思いつつ、もう一歩噛み応えがあると、より強い印象を残せたかもしれません。

• 小原信治（放送作家・脚本家）

  目や鼻などのパーツは見えてもそれをひとつの顔として結びつけられない相貌失認という障碍とデッサンというモチーフを組み合わせたところにオリジナリティと小説でしかできない表現に挑もうとする気概を感じました。前半では救う側だった主人公が救われる側だったという反転劇も見事です。登場人物たちが抱えた心の病がシリアスであるがゆえに、彼らのオタクっぽい会話劇がせっかくの世界観を損ねている気がしました。

• 阿南浩志（電撃文庫編集長）

  精神的な問題に起因するシリアスで重い題材でありながらも、非常に軽やかなタッチに仕上げられているのが印象的です。主人公とヒロインが交流を重ねる中で再生していくという王道の展開で、文章が素直で読み味のテンポがよく、学園を舞台にした青春小説としてさわやかな読み心地です。前半でヒロインを助けた主人公が、実は自身も病を抱えていたことが明かされる中盤の転換も見事でした。

• 遠藤充香（メディアワークス文庫編集長）

  傷を負った高校生が絵の創作を通して再生していく過程に、十代の多感な登場人物たちそれぞれの、絶望、憂鬱、喜びがリアルに瑞々しく描出されていました。予想を軽妙に裏切る展開も鮮やかで、彼らが紡ぐ魂のこもった言葉一つ一つが心に沁み、とくに終盤でヒロインが主人公に投げかけたセリフに心を射抜かれます。闇に包まれた誰かの心を救うラブストリーだと強く感じ推させていただきました。